少子高齢化が進む現代において、ただ長生きするだけでなく健康でいられる年数を増やす健康寿命に注目が集まっている。
健康寿命を考える上で、欠かせないのが予防医療だ。予防医療のビジネスモデルとしてどのようなものが成功しているのかを紹介しよう。
目次
1.予防医療が必要とされる2つの背景
予防医療が必要とされる背景には、どのようなことが考えられるのだろうか。
1-1.国の医療費負担の増大
1つ目は、国の医療費負担の増大である。少子高齢化により、高齢者にかかる医療費が増え続けている。年齢を重ねれば、病気になるリスクが高まるのは仕方のないことだ。
しかし、日本の医療は、「病気になってから治療をする」というケースがほとんどであり、治療するリスクも高く、患者の金銭的な負担も大きくなる。
1-2.健康寿命に注目が集まりつつある
2つ目は、日本人の寿命が伸びており、長く健康な状態で過ごせるかに、注目が集まりつつあることだ。
老後に必要な金額などが議論となり、話題となっている。こうした話題に敏感になる理由に医療費負担の不安が挙げられる。年齢を重ねるほどに病気になり医療費がかかると考えうから、こうしたニュースに不安を覚えるだろう。
さらに在宅介護の問題として老老介護や認認介護、施設でも介護職員不足などが取り上げられるが、何も解決していない。
こうした不安要素と、長生きすることを考えれば、できるだけ健康な状態でいたいと誰もが考える。健康であれば、長く働くこともできるから、収入面もカバーできるというところだ。
2.日本で予防医療が進まないのはなぜか
実は海外では、病気になってから治療するのではなく、病気になる前に予防することに取り組みのが早かった。
では、日本で予防医療が進まない理由はどこにあるのだろうか。
2-1.国民皆保険制度があるため
日本の制度で良いところとして紹介されるのが、国民皆保険制度だ。
実はこの制度、治療は保険が適用されるが、予防医療には適用されないというデメリットがある。
高額な予防医療より、国民の誰もが安心して医療が受けられるとなれば、予防医療より「病気になってから治療すればいい」という考え方にもなるのも頷ける。
海外で予防医療が進められるのは、国民皆保険制度がない国がほとんどだからだ。
例えばアメリカの場合、病院で治療を受けるには数万円かかることもある。「病気にならない、病院へ行かない」というように、必然的に国民一人ひとりが、予防医療を心がけるようになるのだ。
2-2.医師が病気は治療するものという感覚であるため
日本の医師は、「病気を治療する」ことに趣きをおいている。様々な症状を訴える患者に対して診断をして治療する。
大学でも診断、治療に関することを学ぶわけだから、当たり前のことではある。重い病気にかかった患者の一命を取り留めることも医師の大切な役割であり、やりがいを感じる部分でもあるだろう。
しかし、そもそも重い病気にならない体づくりをしたら、どうだろう。病気にならないこと、そのためにするべきことを医師が示してくれたら、日本の医療は大きく変化することは間違いない。
3.スマート脳ドックのビジネスモデル事例
では、実際に予防医療のビジネスモデルとして成功をおさめている「スマート脳ドック」を成功事例として紹介しよう。
3-1.稼働率重視の低価格化
スマート脳ドックとは、CTやMRIで撮影をして、異常の有無について調べる人間ドックである。これだけ聞けば、一般的に行われる人間ドックとなんら変わりはない。
このスマート脳ドックのメリットは、
- 撮影のみで終了する
- スマホからも予約できる
基本のメニューは脳の画像診断のみ。オプションで他の部位のCT撮影もできる。撮影する部位の数にもよるが、脳だけであれば撮影は20分くらいで終わる。診断などは撮影当日にはない。これだけ終了なら仕事の合間の昼休みに終わらせることも可能だ。
そして、予約もスマホから予約ができるから、忙しいビジネスマンでも楽に予約ができる。あとは、予約した時間に病院へ行くだけ。
予防医療となる脳ドックは、自由診療だから料金が気になるところ。スマート脳ドックでは、1人当たりにかける時間を減らすことで、稼働率を上げて低価格化を実現している。
3-2.オンラインでの画像診断
スマート脳ドックでは、画像診断はオンラインで行う。診断するのは、提携する病院や医師だ。通常の医療機関とは違うところだ。画像を共有して診断をしてもうことで、常駐の医師を減らす。これも低価格化を実現するための手段の一つだ。
3-3.診断結果はサイトで確認できる
画像診断が出るまでには数日かかるが、その際の来院は必要ない。画像診断の結果は、後日サイトにログインして確認するシステムになっている。
診断の結果次第で、その後の対応は違う。
- 異常なしであれば、これ終了となる。一年に一回の定期検診を勧める程度だ。
- もし、異常があれば、医師との面談を予約して説明を受けて、再検査の段取りを取る。
脳ドックを受ける側にすれば、自覚症状もなく、健康だと思っている。結果を聞くための来院も煩わしいだろう。サイトでの確認は最適だ。
4.予防医療ビジネスを成功させる3つの秘訣
予防医療がビジネスとして成功するための秘訣は、いったいどこにあるのだろうか。
4-1.医療をビジネスとして考える
医療をビジネスと捉えている医師は少ない。国民皆保険制度によって、報酬は患者からの自己負担額の3割、残り7割は国から得る。
しかし、保険適用外となる美容整形や東洋医学などでは、自由診療が当たり前だ。ライバルや競合が多いことから、生き残るために様々な手段を考えている。治療のレベルが高いことはもちろん、最新の医療機器を揃えたり、スタッフの丁寧な対応を心がけている。
保険適用の医療機関では、長い待ち時間や、短い診療時間に不安も持ちながらも、患者は来院する。危機感はないだろう。
今後、患者の意識が変わり、世間の需要も予防医療に趣を置くようになれば、ビジネス向きでは生き残れない。ライバルが少ない今こそ、地位を確立しておきたい。
4-2.患者の期待に応える
保険適用外である美容整形のように、予防医療が世間に定着すれば、患者は、取り合いになる。これまでのような黙っていても患者が来るという時代は終わることになる。
どうしたら患者が来るのか、どんなことを望んでいるのか。患者を思っての対応をして欲しい。
4-3.ターゲットと社会問題を捉える
ビジネスとして考える上で大事なのは、ターゲットを決めることだ。どんな患者に予防医療を提供するのかを考えて欲しい。
例えば、富裕層をターゲットにするなら、価格より特別感を出す必要がある。治療内容、スタッフの対応、アフターケアなどを考えておきたい。
逆に、一般の人をターゲットとするなら、価格を下げてお得な情報で興味を引いていきたい。
現在、日本の医療費負担は増大傾向にある。これにより老後に2,000万円の貯蓄が必要だと問題になった。こうした社会問題もきちんと踏まえておきたい。広く一般に予防医療を浸透させることも必要である。健康寿命を伸ばすことを考え、働くことや余暇を楽しむ生きがいを患者に与えて欲しい。
5.AI導入による予防医療のこれから
予防医療の場面でもAIが導入されつつある。これからの予防医療には、どのようなことが期待できるだろうか。
5-1.AIによるデータ管理とアドバイス
ダイエットアプリに、食べる物を撮影するだけでカロリーを計算する機能がある。ユーザーが計算したり一覧から食品を探す手間が一切なくなった。
これを応用すれば、食生活や運動量から体調管理ができるから、その人に合ったアドバイスができる。また、血圧を測定して管理をすれば、オンラインで患者を把握することができるから、医療機関への受診も不要となる。
このように、ユーザーや患者のデータを取ることができれば、あとはAIに管理を任せられ、予防医療に役立てていくことができる。
5-2.医師の業務改善
企業などで問われる過労死や自殺が増加している。これは、医師にとっても他人事ではない。働き方改革によって、労働時間などが見直されているが、医師不足などを理由に徹底されていないことが多い。
一部の業務をAIに任せられることができれば、医師の負担は軽減される。適度な休みを取りながら医師でないとできない業務に専念してもらえるようになるのが理想的だろう。
6.予防医療にはビジネスチャンスがある
スマート脳ドックのビジネスモデル事例は、予防医療にビジネスチャンスがあることをよく表している。AIの使いどころやIT化によって、まだまだ効率アップできる部分が残されているだろう。
そしてビジネスとして考える医療と、社会問題の解決も考慮に入れながら、予防医療の新しいビジネスモデルを考えてみてはどうだろうか。