スマートフォンを使った配車サービスで知られるUberが、トラックドライバーのためのアプリUber Freightを公開している。
既存の運送業界の抱える問題を解決し、ドライバーの環境改善を狙う意欲的な取り組みだ。
この記事では、Uber Freightのコンセプトの基本、ビジネスモデル、生み出される価値などについて解説する。
目次
Uber Freightとはどのようなサービスか?
ここでは、Uber Freightのサービスを理解するための基本的な情報を述べる。
Uberとは?
Uberは2009年にアメリカのカリフォルニア州で設立された「ウーバー・テクノロジーズ社」が運営する配車サービスとそのアプリを指す。
アメリカや欧米では、配車サービスを利用する際に、Uberを使うことが多くなってきている。
インターネットにつながるスマートフォンがあれば、手間がかからず便利だからだ。
この配車サービスはUberコアビジネスである。「使っていない車を有効活用したい人」と、「車に乗せてもらいたい人」を、インターネットで接続されたアプリケーション上でマッチングさせるのだ。
Uberが抱えるリスク
ところが、残念ながら配車サービスのUberは日本では利用できない。
報酬を得るために車を運転することを営業運転と呼び、国からの許可や免許が必要になるからだ。
空き時間があり、車を使う予定がなく、小遣い稼ぎをしようと思っても、許可なしのタクシー業務は通称「白タク」と呼ばれ、違法行為となる。
また、欧米諸国でも規制が拡大する傾向にある。イギリスやフランスではUberの一部のサービスは停止に追い込まれているのだ。
これは、Uberのそのほかのサービスについても、競合する既存の業界との関係を考えるうえで考慮しておくべきリスクの一つといえるだろう。
Uber Freightとは?
Uber Freightとは、スマートフォンを主なツールとして使い、運送業者と貨物をマッチングさせるアプリケーションの名称だ。ウーバー・テクノロジー社が先行して提供している、さまざまなビジネスモデルの応用編といえる。
Uberの共通コンセプト
日本では、配車サービスよりUberの子会社である「ウーバー・イーツ社」のオンライン・フードデリバリーサービスUber Eatsのほうが馴染みがあるだろう。
自転車やバイクなどの移動手段を持っている人を対象に、空き時間を利用して「人」ではなく「フード」を運んでもらうのである。
今回のテーマであるUber Freightも、UberやUber Eatsと同じコンセプトによる現代的なビジネススタイルといえるだろう。
ビジネスモデルとしてのUber Freight
以下で、Uber Freightに特徴的なビジネスの考え方を検証する。
シェアリングビジネスの基礎知識
Uber Freightのビジネスモデルを理解するために、ここでシェアリングビジネスについて整理しておく。
シェアリングビジネスとは、モノやサービスの「共有」や「融通」を前提とした経済活動だ。
一般的には、生産者は提供するモノやサービスを「所有」している。その所有権を譲渡したり、賃貸することで利益を追求するのだ。
シェアリングビジネスでは、所有しているかどうかは問題にならない。
実際に使用価値が生まれれば、自分のモノである必要はないと考える。
たとえば、自家用車の稼働率はそれほど高いものではない。数時間の通勤に使うのであれば、1日の残りの時間は駐車場に停められたままである。
個人の所有物なので、どのように使おうと問題はないと考える。一方、シェアリングビジネスでは、使っていないのであれば、誰かに使ってもらい、その分を収益化しようという発想の転換を行う。
プラットフォーマーとしてのUber
シェアリングを実現するには、動的な情報を収集して管理する必要がある。
たとえば、あらかじめ週間の予定を立て、それをもとに配車計画をアレンジする方法では、静的な情報の管理しかできない。
ちょっと時間的な余裕ができたので、自分が所有するトラックを使って貨物を運び収入を得たいという、動的な情報には対応できないのだ。
この問題は、IT革命によって乗り越えられた。2000年代以降のインターネットの発達とスマートフォンの普及により、個人レベルでの動的な情報発信・受信が可能となっている。
貨物を運んでもらいたい発注者は、時間帯などの条件を掲示してアプリで発注する。
それを見たドライバーは、条件に合えば受注するという「仕組み」が、事前の予約やスケジューリングなしで成立してしまうのだ。
Uberが提供するのはこの「仕組み」である。この例で言えば、Uberは個別の貨物配送依頼情報を精査して、自らスケジューリングをするわけではない。
募集条件に合った応募を自動的にマッチングするプラットフォームを提供しているに過ぎない。
最初にマッチングシステムを構築し運用を開始してしまえば、そこで発生する取引には直接関与しない。
これが、Uberのようなプラットフォーマー型ビジネスモデルの基本といえる。
Uber Freight以前のトラックドライバーが抱えていた2つのリスクとは?
これまでのトラックドライバーは大きく2つのリスクを抱えながら仕事をこなしてきた。
配送依頼を受けるまでのリスク
貨物輸送といえば、グローバルな輸送ネットワークを持つFedExやUPSなどの大企業を思い浮かべるかもしれない。
しかし、実際は、個人事業主としてのトラックドライバーや中小の運送会社がなければ成立しないのだ。
ところが、従来の運送業界の慣行としては、荷物の手配や請負の段階で、発注者と受注者の関係が公平であったとは言い難いところがある。
規模の大きな会社に対して、ドライバーや中小の会社は常に不利な立場にあった。
支払を受けるまでのリスク
また、運送業務の対価としての料金の支払いについても、時間がかかるのが一般的だった。
業務が完了してもすぐに支払いを受けられるわけではなく、翌月払いとなるのが普通なのだ。
これは、資金力のない事業者にとっては経営的に厳しい状況を招くリスクとなる。
特に、自己所有のトラックとドライバーとしての自分の身一つで仕事をするフリーランスのドライバーであれば、何かのトラブルが起こってもサポート体制は期待できない。そこでは、資金的な余裕こそが保険となるのだ。
Uber Freightが実現する価値とは?
Uber Freightによってトラックドライバーのリスクが軽減される。
2つの価値
Uber Freightのキャッチフレーズのひとつに「Simple booking, faster pay」がある。
これは、トラックドライバーにとってのUber Freightが実現する「2つの価値」を端的に示している。
配送依頼を迅速に獲得できる
1つ目の価値としては、積荷を得るためのトラックドライバーの負担を軽減する効果がある。
Uber Freight以前の運送業界の慣行として、仕事は自分で探す必要があった。
配送依頼候補者に対して、電話などを使ってドライバー自身でコンタクトする必要があり、時間や労力をかけても仕事が取れないこともある。
Uber Freightでは、この作業をスマートフォン上のアプリで行う。
荷物の種類や目的地、輸送距離、料金などを画面で一覧し、条件に合えばタップするだけで業務依頼を受けることができるのだ。
短期間で支払を受けることができる
2つ目の価値は、支払を待つ時間の短縮効果である。運送業界に限らず、従来のビジネス慣行では、経理事務の締め日の関係から「月末締めの翌月末払い」が一般的だ。
資金の流れを正確に把握するための合理的な慣行だが、Uber Freightはこの処理スピードを向上させている。
業務終了後、数日以内に支払われるシステムが採用されている。
キャッシュフローの管理に敏感な個人事業主としてのドライバーにとっては、大きく歓迎される仕組みだろう。
Uber Freight自体が抱えるのは規制拡大リスクによるサービス停止?
Uber Freight自体が抱えるリスクを解説する。
規制拡大リスク
先行するUberの自家用車による配車サービスは、エンドユーザーには受け入れられながらも、タクシー業界などの既得権益を持つ側からは大きな反発を受けている。
日本のようにもともと規制が厳しいところもあれば、業界団体が政治を動かして、事実上Uberのサービスを停止させた例もある。
Uber Freightは、通常のUberとは異なり、プロであることが認められたドライバーだけが登録できるようになっている。
そのため、自家用車に対してのタクシー業界のような反発はないかもしれない。
ただし、Uber Freightによって既得権益を脅かされると考える人たちが出てきたときには、サービスが提供できなくなるリスクは高くなる。
Uber Freightの今後の展開に注目!
ウーバー・テクノロジーズ社が展開する、運送業界向けのサービスUber Freightは、トラックドライバーにとっては、大きな恩恵となる可能性がある。
ただし、同社の先行するサービス同様のリスクもあるので、今後の展開に注目したい。