2018年6月19日、企業としての評価額が10億ドル(約1100億円)を超えると言われていた企業、メルカリがついに上場した。その勢いはとどまるところを知らず、今や日本で知らない人を探す事の方が難しいほどだろう。
新進気鋭のメルカリはどうして短期間でここまで成長できたのか、ビジネスモデルを6つの視点から分析していこう。
参照:https://www.mercari.com/jp/
目次
1.手軽さを追求し、簡素化された取引
簡単に、手軽に、買い物ができるアプリ。メルカリを一言で表すならば、そのようになるのではないだろうか。そう、メルカリの第一の強みはその手軽さだろう。
この手軽さを実現しているのは、マッチング型と呼ばれるプラットフォームによるところが大きい。このプラットフォームの中では、需要と供給がマッチングされる。つまり、物を売りたい一般消費者と買いたい一般消費者をつなげる市場(マーケットプレイス)が提供されているのだ。
この方式はCtoC(Consumer to Consumer)という消費者同士の取引に分類され、オークションアプリなどでも採用されている。
メルカリはそのCtoC業界において固定された額で商品が即決即売が行われる、フリーマーケットを提供するサービスとして誕生した。出品手数料や有料会員登録は要求せず、手数料の10%を取引成立時に回収する。
このマッチング型プラットフォームは、スマートフォンへのフォーカスとユーザーインターフェースにより強力にサポートされている。
まず、メルカリはローンチ当初からスマートフォンでの使用を前提にデザインされた。具体的に言えば商品の写真を撮影するところから出品手続き、売上の管理など一連の流れを片手で完結できるようになっているので、現代のすべてのスマートフォン所有者が手軽に取引を行えるのだ。
さらに、スタイリッシュさよりも見やすさと使いやすさを重視したデザイン、プッシュ通知機能によるスピード感のある消費行動などユーザーインターフェースの面においてもメルカリには強みがある。パソコンではなくスマートフォンを重視し、簡素化を突き詰めた戦略は時代の流れを的確に捉えていることの表れだろう。
2.「手軽さ」のために業者を排除し、完全なCtoCに
サービスの「手軽さ」を向上させるためにメルカリが打った第2の手、それは徹底した業者の排除だ。その理由は、誰でもより簡単に取引を行えるようにするということだった。
企業が介入しないCtoCのEC(電子商取引)市場を作る上で、従来はあまりなかった革新的なことである。専門家である業者が綺麗な写真を用いてあまりにもハイクオリティの商品ページが並んでしまえば、一般の利用者は尻込みしてしまい、気軽に出品しようという気が起こらなくなってしまう。
そこでメルカリは業者認定した出品者を検索結果に表示されないようにし、一般利用者同士の取引に限定した市場提供を行なっている。このことも、メルカリが手軽さを維持するための戦略だ。
3.「安心・安全」を実現する取引システム
メルカリのビジネスモデルの3つ目の大きな特徴は、「安心・安全」な取引のための配慮だ。メルカリはエスクロー決済と呼ばれる、キャッシュの取引の際に第三者を置いて安全性を高める仕組みを採用している。
わかりやすく言えば、メルカリが出品者と購入者の間に立ち、キャッシュのやり取りを管理する。出品者の売り上げとなるのは商品状態を確認した後、ということになるから、「商品が届かなかい」「思っていた商品と違うものが届いた」といったトラブルを未然に防ぐ事ができるかたちなのだ。また、購入者の支払いが確認されてから商品の発送を行うので、出品者は確実に代金を回収する事ができる。
それに加えて、らくらくメルカリ便での匿名配送サービスにも取引の安全性を高める姿勢がうかがえる。CtoCにおいて個人情報は大きな問題であるが、ここでメルカリは市場の管理者として個人情報を守るオプションも提供している。特に女性が、「ここなら安心して取引できる」と思える選択肢だ。
このような安全な取引を実現する仕組みによって、市場としての信頼を得る努力を怠らない姿勢も、メルカリのビジネスモデルを語る上で大切な要素のひとつだ。
4.メルカリならではの経営方式
ここまではメルカリのサービスの強みを見てきたが、実際の経営戦略はどうなのだろう。4つ目の視点として財務的な面から見ると、前述したエスクロー決済がこれまた大きく関わってくる。
この方式によってメルカリが購入者のキャッシュを一時的に管理すること加えて、売り上げが換算されたポイントを手数料無料でキャッシュ化するために、利用者は一定の額の売上を上げなければならない。これにより購入者のキャッシュが実際に出品者の財布に入るまで時間的なギャップが生まれ、取引が増えるにつれてメルカリにどんどんキャッシュが溜まっていく。
実際に、メルカリの資産の中でも大部分を現金もしくは預金が占めている。こうして生み出されるキャッシュは、今度は投資へも回す事ができる。イノベーションを起こせる優秀な人材、AIなどのテクノロジー、そして国内の10倍以上もある海外市場へ投資されていくのだ。
一時期話題になったメルカリアッテのケースように新規事業が上手くいかなかった例もあるが、それでもメルカリは挑戦をやめない。このようにどんどんキャッシュを回すしくみが、失敗を恐れず大胆な戦略をとっていける重要な鍵となっている。
5.徹底した初期戦略
マッチング型プラットフォームにおいては、それを利用する人の数がサービスの価値に直結する。少ない利用者でマッチングを行ったところで、「すこし大きくなった公園のフリーマーケット」程度に過ぎなくなってしまう。
メルカリの5つ目の強みは、その徹底した初期戦略である。メルカリは生命線である利用者数増加のために、初めの一年の間になんと4.5億円をつぎ込んだ。テレビに3億、オンライン広告に1.5億という割合だ。
これは実に当時調達した資金の約3分の1に値する。特にテレビCMでは人気のあるタレントなどを次々と出演させ、世間で大きな話題を呼んだ。この莫大な投資が、設立からわずか6年足らずで日米合わせて1億ダウンロードを超えるという、今日の圧倒的な結果となって表れている。
また初期には今の10%の手数料がなく、無料でサービスを利用できたということも、ユーザーの増加に大きくつながった。しかし、メルカリのマーケティングに対しての情熱はこんなところでは途切れない。オンラインのみならずリアルでもフリーマーケットを開催したのだ。
このリアルフリマは、2018年11月までに計28回、首都圏から地方までさまざまな場所で行われている。日本全国幅広い人にメルカリ=フリマというイメージを抱かせる初期戦略により爆発的に多くの利用者を囲いこめたことが、メルカリのサービスとしての価値を飛躍的に高めたと言えるだろう。
6.獲得したユーザーを維持する、抜群のカスタマーサポート
6つ目のメルカリの強さ、それはカスタマーサポートの充実にある。
たとえ初期戦略でいかに上手く大量の新規ユーザーを呼び込めたとしても、満足させる事ができなければ結局すぐに離れていってしまう。
そしてCtoCのメルカリにとって、顧客と直接やり取りする部署はカスタマーサポートのみ。そこで社員の半分以上をカスタマーサポートに配置し、どのようなトラブルにも迅速に対応できるよう万全を期す体制が整っている。
しかもまだCMを放映したことのない時期に、CMによりユーザーが一気に増えるという確信のもと、それまでの東京拠点に加え仙台にもカスタマーサポートの拠点を作ったというのだから驚きだ。
また利用客の声をデータとして分析もし、常にサービスの質を向上させていく。こうして大量の利用客を長期的に囲い込む戦略をとったメルカリが、最終的にマーケティングにおいて成功を収めたのだ。
7.メルカリの大きな強みはマーケティングとどこまでもユーザーを思う姿勢
ここまで見てきたように、メルカリはシンプルで便利なサービスの提供を目指し、独自のビジネスモデルで成長を続けてきた。特に、綿密なマーケティングと徹底的に利用客のことを考える姿勢は特筆に値するだろう。
これからメルカリがどのように価値を生み出し続けるのか、まだまだ目が離せない。