日本でも各所でキャッシュレス化が進む中、福岡市が行政施設の多くにLINEPayを導入した。今後も街をあげてのキャッシュレス化は進行していく見通しだ。
この記事では、福岡市とLINEPayの関係がもたらす影響や課題について解説する。
出展:福岡市役所
目次
1.そもそもLINEPayとは?福岡市はどのように導入した?
まずは、LINEPayの仕組みと、福岡市が行うキャッシュレス化の現状について紹介したい。
1-1.モバイル決済・送金サービス
まず、LINEPayとは、SNSの一つであるLINEアプリがリリースした新機能である。モバイル決済や送金を、LINE上で完結できる仕組みであり、キャッシュレス化が進む時代に対応したサービスだ。
例えば、LINEPayの提携店でショッピングをすれば、キャッシュレス決済ができる。
キャッシュレスのメリットは、支払いの煩わしさがない。
- 財布がいらない
- 現金を用意する必要がない
- 小銭で財布が重くならない
また、LINEPayを利用しているユーザー同士なら、飲食店での割り勘も便利だ。1円単位での割り勘がスムーズに行えるので、会計時に計算したり両替から解放される。使い慣れることで、現金で会計をするストレスが軽減される。
メディアでも大々的に広告され、認知度も高いからLINEPayに対応している施設・機関は増加傾向だ。
1-2.福岡市とLINEPay
福岡市がLINEPayを導入したのは、2019年4月から。当時、行政がLINEPay導入するとあって、大きなニュースとなり紹介された。
この4月時点で導入が発表されたのは、福岡市の20窓口・39施設である。
例えば、駐輪場や美術館、動植物園が、その対応施設となった。
そして、福岡市は2018年6月からLINEPayの実証実験を行なっている。そのデータを活かして、さらにキャッシュレス化していく予定だ。
福岡市は「キャッシュレスFUKUOKA」というキャッチフレーズを掲げており、民間企業と行政が一体となってキャッシュレス化に取り組んできた。この発表は、その施策の一部だといえる。
2.福岡市がキャッシュレス化にする2つのメリット
時代の流れとしてキャッシュレス化に進んでいるが、行政がいち早く取り入れるメリットはあるのだろうか。
主に2つの理由から福岡市はLINEPayの大胆な導入に踏み切った。いずれも、市民の生活を守り、福岡市をさらに発展させていきたいという理念の表れである。
2-1.市民生活のサポート
キャッシュレス化といえば、これまで「現金で支払う」ことが当たり前だった世代には、「難しい」「複雑」といったイメージがある。福岡市でもそうした市民が多かったはずだ。
しかし、実際に導入して稼働を始めて、福岡市民には受け入れられている。
- 銀行やコンビニエンスストアで支払う必要がない
- 24時間、どこにいても請求書や納付書に対応できる
特に期日がある「軽自動車税」「個人市県民税(普通徴収)」「固定資産税・都市計画税」「固定資産税(償却資産)」の4種類の納付書もLINEPay対応だから、納入忘れや遅れを減らすことができる。
2-2.インバウンド観光事業の促進
福岡市は、日本の4大都市の一つである。福岡空港から中心部までのアクセスの良さ、中洲の屋台街、博多祇園山笠など観光としても海外からも注目されている。
こうした、観光事業にとって重要な問題が、「インバウンドマーケティング」だ。福岡市を訪れた外国人観光客の満足度をどのように高めていくかは、街の発展と大きく関わっているということだ。キャッシュレスの世界では後進国の日本は、現状のままだと外国人観光客を失いかねない。
福岡市のキャッシュレス化は、外国人観光客のニーズに応えた形となり、さらに注目されることになる。
3.LINEPay導入による福岡市民の影響
福岡市がLINEPayを導入したことで、日本社会にはどのような影響があるだろうか。
3-1.LINEPayだからできたこと
まず、LINEはSNSとして認知度が高い。ユーザーの86%が「毎日使う」としたデータがあるほどだ。すでにLINEは日本人の生活に欠かせないアプリとなっている。LINEから派生したLINEPayとなれば、数多くあるキャッシュレスサービスの中から自然と選ぶユーザーも多いはずだ。さらには、キャッシュレス初心者の対応も問題視されるが、LINEと連携して使えるから不安も軽減される。
福岡市のLINEPayの導入以後、千葉県や長野県でも広がりを見せている。確実に、日本の各市町村に大きな影響を与えている。
「LINEPay」のポテンシャルを世間に示した好例として、福岡市は記憶に残るだろう。
3-2.行政への期待と信頼
福岡市では、LINEPayによるキャッシュレスサービスだけでなく、市民との繋がりに活用している。
例えば、福岡市では粗大ゴミの回収のお知らせや、公共施設における不具合を行政に報告するサービスなどにLINEPayを利用している。これまでのサービスに、LINEPay決済による割引やポイント付加といった特典を盛り込んで、利用者を増やしている。
さらには、LINEPayを使うために、高齢者のLINEのインストールの増加にも成功している。
まさに、行政と市民のコミュニケーションを活性化させるために、LINEPayは役立っているといえる。
4.市民にはどんなメリット・デメリットがある?LINEPayがもたらすもの
行政側にどんなメリットがあっても、実際にLINEPayを利用するのは市民である。ここでは、市民へのメリットとデメリットを紹介する。
4-1.市民へのメリットは3つ
これまでのサービスをいかに簡素化して、市民に親しまれるかがポイントである。
・特典がある
LINEPayを利用することで特典があれば、誰でも利用することを考える。行政への税金納付で利用すれば、LINEPay提携店での割引サービス、クーポン配布、ポイント付加といった特典を受けられる。現金で普通に買い物をするよりも、LINEPayの方がお得になる。
・高齢者に優しい
これまでの行政は、納税サービスとしてコンビニや銀行で使える納付書を市民に郵送してきた。しかし、体の悪い高齢者にとって、こうしたサービスの利点はほとんどない。家にいながらでも納税ができるLINEPayは、高齢者に優しいといえる。
・現金の用意と持ち歩く不安解消
税金の納付時など、一時的に多くの現金を持ち歩くを覚える市民もいる。LINEPayはスマホで決済が可能だから、不安なく支払いを終えることができる。
4-2.市民へのデメリットは2つ
LINEPay自体は優れたサービスであるとはいえ、デメリットがあることを忘れないで欲しい。
・現金派の市民
簡素になることで返って不安になる市民もいる。LINEPayが便利でも、キャッシュレス自体に抵抗のある市民はいる。こうした市民の不安を解消して理解してもらうことに努めて欲しい。
・チャージできる銀行が限られる
一部の地方銀行をのぞけば、LINEPayはみずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行、りそな銀行、埼玉りそな銀行でしかチャージできない。近くに指定される銀行がないことや、新規口座の開設手続きとなれば、不便を感じる市民もいる。
5.福岡市とLINEPayが抱える今後の課題
まだ、全国的に見てもLINEPayを導入した市町村は珍しい。
そんな新しい取り組みを成功させ、広げていくためにも福岡市には頑張ってもらいところだ。
これからの発展のためには、どんな課題が残っているのだろうか。
5-1.外部との提携をどこまで進められるか
LINEPayを公共施設に導入したことにより、その便利さは福岡市民の中で共有されていくだろう。次に課題となるのは、今度は外部との連携だ。
どんなに便利でも、福岡市以外の場所では同様のサービス利用ができないと、なかなか普及していかない。こうした課題は、提携している企業・団体が限られているLINEPay側のテーマでもある。
例えば、市民と行政が手を組んで、新たなサービス提供機関を創設していくことは可能だろう。そのためには、まず市民にLINEPayを浸透させなくてはいけない。長期的展望で本気のキャッシュレス化に取り組めるかが、福岡市には問われている。
5-2.決済以外の付加価値を探す
福岡市では実証実験の期間が長かったこともあり、幅広い世代にわたってキャッシュレス化が進んでいる。市民への啓蒙活動は比較的順調に行われてきたといえる。
今後は、単に「便利」「お得」ではない、付加価値を与えられるかが課題だ。LINEPayユーザー同士のコミュニティを強化し、地域社会での繋がりを感じられるような仕組みを作るなどの工夫が必要だろう。使い勝手だけを追求するなら競合サービスの後塵を拝する可能性もゼロではない。LINEならではのコミュニケーションが突破口になるはずだ。
6.福岡市とLINEPayの関係にキャッシュレスの未来が
行政が、無理にキャッシュレス化を推し進めても市民はついてこない。
やり方を間違えてしまえば、キャッシュレスへの拒否感を強めることも考えられる。
福岡市とLINEPayの成功は、行政主導で行うキャッシュレス化の理想形といえるだろう。