「食べ物フリマサービス」のポケットマルシェは、ユニークなアイデアが世間から受け入れられてヒットしている。この記事では、ポケットマルシェのビジネスモデルを解説しながら、成功の仕組みや生産者のメリットなどを掘り下げていく。
目次
1.ポケットマルシェの仕組み!食べ物の流通に変革が
1-1.生産者と消費者を直接つなぐ
生産者と消費者がやりとりをして、食べ物の売買を行うフリマサービスが「ポケットマルシェ」である。
2016年夏、高橋博之氏によってサービスが開始され、着実にユーザーを増やしてきた。ポケットマルシェでは、農家や漁師が「出店者」として登録をして、生産物や収穫物を紹介する。それを見た消費者は出店者にコンタクトを取り、商品の詳細や価格についてやりとりをする仕組みだ。そこで交渉が成立すれば、消費者は出店者から直接商品を購入する。
2019年の時点で、登録生産者数は1000名を超え、新たな流通ルートとして注目されるようになった。
1-2.食品業界の常識をくつがえす
これまでの食品業界では、市場や小売業者が生産者と消費者の間に入るのが主流だった。その理由は、生産者自身が流通ルートや拡散力がないので、仲介業者に頼らざるを得なかったからである。
そこに変化を与えたのが、ポケットマルシェの仕組みであり、「CtoC」型のビジネスが食品業界で成立するようになった。
ポケットマルシェでは、一次産業に従事している人以外の出店を認めていない。生産者は事前に厳しく審査され、安全性など様々な基準をクリアして、ようやく出店ができる。
だから、消費者にとっては、厳選された生産者から質の高い食べ物が購入できるチャンスとなるわけだ。
2.ポケットマルシェ成功の秘訣
2-1.消費者は完全無料!
まず、消費者にとってコストパーフォーマンスが高いのは、大きなメリットだ。
消費者は、ポケットマルシェに登録が完了したら、基本的には無料で利用できるる。
生産者に支払う代金さえ用意しておけば、利用料はかからないのだ。そのため、誰でも気軽に使えるビジネスモデルとなっており、人気を集めた。
ちなみに、ポケットマルシェは完全成功報酬制によって利益を出している。生産者と消費者の間で交渉が成立したときのみ、売上の15%を運営が徴収するシステムだ。
2-2.プラットフォームとしての魅力
しかし、なんといってもポケットマルシェ最大の魅力は「プラットフォーム」にまつわる部分だろう。ポケットマルシェは一種のコミュニティである。生産者は自分たちが食べ物を育てたり、漁をしたりしている様子を投稿していく。
それを見た消費者は食べ物に思い入れを抱くことはもちろん、生産者にも愛着を強めていくのだ。その結果、「こんなにも努力して収穫された食べ物なら、ぜひ味わってみたい」と思うようになる。
こうした手法は、スーパーマーケットやデパートの食品売り場でも行われてきた。ただ、ポケットマルシェは生産者と消費者がダイレクトにつながることで、より詳しく生産の過程を見守れる。安全かつおいしい商品を手に入れるために、ポケットマルシェは理想的な機能をそなえているのだ。
3.生産者にとってのポケットマルシェのメリットとデメリット
3-1.メリット
ポケットマルシェが広まったのは、生産者にとって少なからずメリットがあったからだ。
・販売価格が好条件
小売店などに生産物を卸す場合、安価になってしまうことは少なくない。卸価格が高すぎると、販売価格が相場からかけ離れてしまう。
そうなれば、消費者から見向きもされない。しかし、ポケットマルシェなら生産者は卸価格と同等の額で消費者に買ってもらえるのだ。
・新鮮なまま販売できる
せっかく手塩にかけて育ててきた生産物を、旬の状態で提供したいと思うのは当然の心理だろう。ポケットマルシェなら小売店を挟まないので、消費者の家に届くまでの期間が短い。新鮮な食べ物を思う存分味わってもらえる。
・宣伝が楽
小売店を離れると、生産者が不安なのは拡散力である。どうやって生産物を宣伝すればいいのか、途方に暮れてしまう人は多い。
しかし、ポケットマルシェを利用すれば、質の高い商品に注目が集まる。宣伝費は運営側が持ってくれるので、生産者の負担が軽減されるだろう。
3-2.デメリット
一方、ポケットマルシェには改善すべき課題も見つかっている。
・自己プロデュース能力が必要とされる
ポケットマルシェだけに限った問題ではないものの、プラットフォームでは生産者の自己プロデュース能力が問われる。紹介文や画像を工夫しないと、ほかの出店に埋もれてしまいかねない。
4.ポケットマルシェに対する世間の反応と評価
4-1.大手企業から資金を調達して飛躍
2017年9月、ポケットマルシェはリリースしてから約1年でフリマアプリ「メルカリ」運営会社などを引き受け先にして「第三者割当増資」を行っている。その時の調達資金は、1億8000万円にものぼった。リリース直後には330人ほどだった出店数は、約3年で1000人以上増えている。
ポケットマルシェの成長スピードにはめざましいものがあるといえるだろう。かつて、ECサービスは食品業界との相性が悪いという言説が定番化していた時期もあった。
しかし、ポケットマルシェの飛躍は、そんな価値観を覆しつつある。ECサービス全体のあり方を占う存在として、ポケットマルシェに寄せられる期待は大きい。
4-2.メディアから注目されるポケットマルシェ
ポケットマルシェは2016~2017年の時点で、多くのメディアに取り上げられていた。最初は地方新聞や業界紙が多かったものの、2018年に入ってからは全国区のニュース番組などの取材も受け始めた。
2019年以降も、ポケットマルシェの特集は各メディアで展開されている。ポケットマルシェは「地方」と「都会」の断絶を埋める存在だとの指摘もある。
地方の名産物は都会で入手できるルートが少なく、文化的な交流の衰退にもつながっていた。しかし、ポケットマルシェのようなサービスは地方と都会の精神的な距離を近づけてくれる。食品をきっかけとした、地方再興の可能性も生まれるだろう。
5.ポケットマルシェの現状と今後
5-1.メルカリとの提携で示すポテンシャル
メルカリとポケットマルシェの資本業務提携は、業界内外でも大きな話題となった。生活用品全般を扱うフリマアプリのメルカリとポケットマルシェでは、商品ジャンルが異なる。
それでも、小売業者や仲介業者を挟まない「CtoC型」ビジネスを展開している点では同じだ。両者のノウハウが融合し、すでに「メルカリフリマ」などのリアルイベントが実施されてきている。
イベント内ではポケットマルシェの出店農家が直売店を開くなど、事業の可能性を見せた。今後、新アプリが開発されたり、メルカリが本格的な食品事業に乗り出したりする可能性もゼロではない。
5-2.ポケットマルシェは地方と都市の分断と向き合う
地方と都市の分断をいかに埋めるか、という課題にもポケットマルシェは取り組んでいる。
わかりやすい課題として挙げられるのは、大地震などの災害による影響だ。被災地の食べ物の安全性が風評被害などによって疑われ始めると、小売店は取引を減らす傾向にある。
そんな時に、生産者と消費者の間に直接のルートがあれば、風評被害に邪魔されず生産を続けている可能性が生まれる。そして、ポケットマルシェは「CHIVAS VENTURE 2019」世界大会に出場するなど、グローバルな視点も広げてきた。
日本と同様の問題は世界のあちらこちらでも起こっている。ポケットマルシェがそれらとどう向き合っていくのか、注目だろう。
6.ポケットマルシェが伝える食へのメッセージ
生産者が報われる環境づくりは、日本の食糧事情の改善にもつながる。ポケットマルシェのビジネスモデルは広い視野で日本全体の問題を見据えているといえるだろう。
ビジネスで成功するには「何のために」というテーマをしっかり持つことが大切だ。