「星野リゾート」は、建物の雰囲気、窓から見える景色はもちろん、スタッフのホスピタリティに至るまで、贅沢なまでの癒しが提供される。その名を聞くだけでも憧れ、一度は泊まってみたいと誰もが思うホテルだ。
業界の風雲児とも言われる星野佳路氏のビジネスには、これまでの日本のホテル業界になかった戦略が多くみられる。
どんな戦略があり、利益を上げているのか。
憧れのホテルのビジネスモデルに迫る。
出展:星のや 軽井沢
目次
1. 星野リゾートとは
今や日本を代表する「星野リゾート」とは、どんなホテルだろうか?
その始まりは、大正3年に軽井沢にて開業した「星野温泉旅館」である。長く続いた温泉旅館から星野リゾートへと大きく成長を遂げたのは、4代目となる星野佳路氏が社長に就任してからだ。
星野リゾートでは、コンセプトに合わせて「星のや」「界」「リゾナーレ」という、3つの異なった宿泊施設を展開している。
さらには、日帰り施設やシティホテルにも力を入れており、新たな顧客開拓を行なっている。
2. 投資家参入だからこそ運営に専念
軽井沢は、日本有数の観光地だ。しかし、なぜ温泉旅館が、ホテル業界でも一目置かれる宿泊施設として成長することができたのだろうか?
まず、注目して欲しいのは、土地や建物などを所有せず、ホテルの運営のみに徹していることだ。
通常、ホテルを経営するためには、建物の新規建設、既存の建物を維持していくための費用が必要となる。そうなれば、必然的に負債を抱え、これを返済しながら利益を上げていくことになる。
言葉で言えば、簡単なことのように感じるが、建設費用や維持費というのは、想像以上に高額である。そして、地域によっては観光地として衰退してしまい、集客ができずに経営困難という状態にもなる。
見えないところでの苦労によって、閉館していくホテルや旅館は少なくないのだ。そして、後継者問題にも悩まされている。
こうした状況を踏まえ、星野リゾートでは、投資家が参入できるような仕組みを作り、ホテルでは、運営のみに取り組める体制を整えた。
2-1. 既存の宿泊施設を購入する
実は、星野リゾートでは、運営するホテル・旅館のほとんどが、既存の建物を購入したものである。
先述した通り、日本の宿泊施設では2つの悩みを抱えていることが多い。
- 経営困難
- 継承問題
絶景や良質な源泉を持ちながらも、この2つの悩みを解決できずに閉館していくのだ。星野リゾートは、こうした宿泊施設を購入して、自社のコンセプトにリニューアルして開業するのだ。
2-2. 資産運用する子会社の設立
こうした土地や建物の買収を行うのは、星野リゾートの子会社となる「星野リゾート・アセットマネジメント」と、「星野リゾート・リート投資法人」だ。
星野リゾートの宿泊施設を対象とした、不動産投資信託(REIT)を行なっている。投資家に投資してもらい、それを資金にして宿泊施設を取得する。所有する土地や建物などを管理して、賃貸料の収入や売買利益から投資家に配当する仕組みだ。
日本の旅館やホテルでは馴染みのないビジネスモデルだが、星野リゾートでは、この仕組みによって急成長を遂げ、大規模なリゾート経営に成功している。
3. 徹底された4つのコンセプト
出展:株式会社星野リゾート
経営面での問題は、投資家を参入させることで解決できた。
では、実際の運営面での成功について追求してみたい。
3-1. 宿泊施設は4タイプ
星野リゾートと聞いて、ユーザーがイメージするのは、非日常のような空間やおもてなしではないだろうか。
そんな中でも、宿泊施設は3つのタイプに分けられ、それぞれにコンセプトを持っている。
・ 星のや
最高のおもてなしと、非日常を実現させているのが、「星のや」である。
その徹底ぶりから、客室にはテレビは設置されていない。大自然の中で身を委ねることを味わってもらいたいからこそだ。
実は、東京の大手町にも星のやがある。都内のど真ん中であるが、「和のおもてなし」をコンセプトに玄関で靴を脱ぎ、畳の上を歩くという日本旅館らしい作りになっている。
・ 界
温泉があり、地域の文化に触れられるのが、「界」である。
旅館の良さを温泉だけでに留めず、客室のインテリアにも地元の工芸品や特徴を取り入れ、周辺の観光地へ案内するツアーなども展開している。
2019年4月1日にリニューアルオープンした「界 津軽」では、全客室が青森工芸の「津軽こぎんの間」となっている。雪深い津軽だが、大間マグロやりんごなど、「行ってみたい」と、ユーザーを魅了している。
・ リゾナーレ
西洋型のリゾートホテルとして展開しているのが、「リゾナーレ」である。
アクティブに体験することをテーマとしており、旅の思い出作りができる施設だ。
沖縄の離島にある「リゾナーレ小浜島」(2020年4月に再オープン予定)は、青い海・白砂・サンゴ礁という誰もが憧れる南の島がそこにある。海と星空が宝というこの島では、都会にはない体験と感動が待っているに違いない。
・ OMO
星野リゾートが新しく手がけるシリーズは、「旅のテンションを上げるホテルOMO」だ。
都心や地方都市にあるビジネスホテルに注目しているOMOは、これまでビジネスマンの利用がメインだったホテルを、観光客も楽しめるホテルにするということ。
ホテルの作りはもちろんだが、観光が楽しめる「おもてなし」が用意されている。
OMOは現在、旭川(北海道)と大塚(東京)にある。通常のビジネスホテルとは違い、それぞれに個性があるホテルとなっている。
その他にも、星野リゾートでは、建設中やリニューアル中の施設がある。今後のオープンが待ち遠しい。
3-2. スタッフのクオリティが高い
滞在中のおもてなしを、楽しみにしている顧客は少なくない。
そのリクエストに応えられるスタッフがいることも、星野リゾートの魅力だ。
・ スタッフがスタッフを支える
星野リゾートを支えるスタッフは、専門とする仕事以外の業務につくことができる。フロント業務・コンシェルジュ・客室係など、ホテルや旅館には、それぞれの業務がある。プロとしてお客様の対応をしている。
しかし、人手不足が問題とされるホテル業界において、繁忙期に対応しきれないことがある。事前に他の業務についても理解していれば、困った時に助け合えることができる。さらに、お客様からの質問やリクエストにも、お待たせすることなく応対することができる。
スタッフ同士の気配りが、お客様へのおもてなしへと繋がるのだ。
・ 気づきの顧客管理
ホテル業界において、最も増やしたいのがリピーターである。たとえ1年に1回の利用であっても、「また滞在したい」と思う宿泊施設にであることが、利益を生んでいる。
自身がお客となって、考えてもらいたい。多くの利用客の中で自分のことを覚えてくれ、特別なおもてなしをされたら、「そこにまた宿泊したい」と思うのではないだろうか。
星野リゾートでは、どんな些細なことでも宿泊客と接する中で、気づいたことがあれば顧客管理に記録している。常連客、一見の客であってもだ。お客様が喜んでくれたこと、好んで食されたものを記録して、次回の滞在時に活かしている。
サービスとは違う、「自分のことを覚えていてくれた」という感動を味わえるホテルはそうないだろう。
4. 守りではなく攻め続ける
伝統工芸品や文化など、古き良き日本を表現している星野リゾートは、伝統を重んじながらも、そこに固執することはない。
例えば、経営面では、土地や建物を所有せず、運営に徹するなど新しいビジネスモデルを展開している。
また、4代目の星野佳路氏は、過去のインタビューで、「星のや軽井沢」を整備するために父が大切にしていた木を切り倒したという。
自身にも思い出のある木であったはずだ。しかし、その木を守るために整備に着手しなければ、「星のや軽井沢」の発展はない。
星野リゾートは、日本の文化や伝統を守るためではなく、世界に発信して良さを知ってもらうという、攻めの姿勢を見せているのだ。
攻め続けるからこそ、星野リゾートは業績を伸ばしていけるのだ。
4-1. 日本旅館でグローバル展開
日本のラグジュアリーホテルとして、地位を確立している「星野リゾート」は、「日本旅館」で世界に勝負していきたいと考えている。
いよいよ来年、2020年には東京オリンピックが開催される。今以上に海外からのお客様が増えることは間違いない。星野リゾートもそれに向けたリニューアルが行われている。
ここまでにも「おもてなし」という言葉で表現しているが、これは日本の旅館が行なってきたものだ。お客様を思い、少し先を考え喜ばれるポイントに目を向ける。宿泊して「言われたら用意する」ではなく、「最初から用意しておく」という状況を作る。感謝されたいからするのではない、これが当たり前なのだ。
伝統文化やおもてなしを武器に、日本旅館が世界に認められる日を待ちたい。
5. まとめ
今回は、星野リゾートのビジネスモデルについて追求してみた。
基盤となるコンセプトを作り、お客様をおもてなしするというビジネスモデルは、どの宿泊施設にもあるだろう。
しかし、まだ宿泊することができないと、手が届かず憧れる人がいる。星野リゾートが他と違うのは、そこにも夢を見せてくれるというところだ。
星野リゾートのwebサイトにはスタッフブログがあり、こまめに更新をしている。季節折々の楽しみ方が書かれており、憧れる人へにもそれが伝わるだろう。
それは決して特別なことをしているわけではない。働くスタッフにとっては、当たり前であり、「おもてなし」なのである。
星野リゾートが展開する、今後の攻めの姿勢に期待したい。