作業服専門チェーン店として有名な「ワークマン」の新規事業が話題を呼んでいる。
この新規事業は、これまでの路線を大きく外れているようだが、変わらない独自のビジネスモデルを貫いている。
そもそもなぜ、新規事業に取り組みを始めたのか?作業服のジャンルにおいて、すでにトップ企業であり、その地位は安泰だ。ここにきて新規事業に乗り出すリスクに似合うメリットがあるのだろうか?
今回は、
・ワークマンの強み
・大注目のカジュアル服
・新規事業へのきっかけと戦略
・ワークマンが競合に発展するのか
についてフォーカスしていく。
出典:ワークマン
目次
1. ワークマンとは
ワークマンは全国にチェーン展開する作業服専門メーカーだ。
作業服や防寒・防水着、足袋や手袋など、あらゆる現場で働く職人たちを支えている。
全国にある店舗は、朝7時から開店と朝が早い。建設・電気・水道といった、現場で働く職人、そして運輸・倉庫のように24時間稼働している職場で働く人たちがいる。こうした人たちがワークマンのターゲットだ。
1-1. プロも認める機能性と低価格
ワークマンを利用する人たちは、機能性の良さと、毎日使うものであるということから低価格であることに魅力を感じている。
軍手などの手袋や作業着も、職業によっては頻繁に取り換える必要があるものもあり、消耗品として購入することが多いだろう。そのため、低価格であることが非常に大切なのである。
また、機能性と言えば、防寒などの人の体を守る役目はもちろんだが、商品の品質や品揃えの良さが高い評価を得ている。店内には常時1,700のアイテムが揃い、自社製品の開発によって改良を重ねながら機能性と品質を保っている。
また、ワークマンは製造小売業によって、低価格を可能としているのだ。自社製品の開発後、製造を中国やミャンマーで行う。
もちろん、試作を製造するが、いきなり量産するようなことはしない。商品についてのリサーチのために、試験的な販売をおこない、検証をする。こうすることで、在庫を抱えないというリスクを減らすことができる。
だから、低価格にて、良いものを提供することができるのだ。
2. ワークマンの強み
出典:ワークマン
ワークマンの商品は品質も良く、低価格を実現するために様々な企業努力がみられる。
では、ワークマンにはどんな強みがあるのだろうか?
2-1. 競合がいない
実は、ワークマンには競合となるライバル会社がいない。
実店舗やオンラインショップなど、ビジネスモデルは他のアパレル会社と変わりはしないが、商品や価格の面において同じビジネスモデルを展開するアパレル会社がいないのだ。
低価格で商品を販売するといえば、「ユニクロ」や「GU」、「ZOZO」をイメージする方もいるだろう。しかし、ワークマンのメインは「作業服」であり、カジュアルな衣類を取り扱うユニクロとは、根本的に違うのだ。
2-2. 勝負をしたくない
競合がいない市場でビジネスをすることを、「ブルーオーシャン戦略」という。ワークマンは、その成功事例ともいえる。
競合がいないという状況に、企業としてはどう捉えているのだろうか?
ここでも、ワークマンが他の企業と違うことが明らかに分かる。
ワークマンの考えとして「勝負をしたくない」とある。土屋哲雄常務もインタビューで、「勝負して負けるぐらいなら、勝負しないほうがいい」と話している。
ワークマンの信条は3つの満足から成り立つ。
- お客様の満足
- 加盟店様とお取引先の満足
- 社員の満足
仲良しごっこがしたいわけではない。常に目標を持ち挑戦することを恐れないこと。しかし、そこに誰の満足も得られないなら、ビジネスとしては成立しないことを信条としているのだ。
2-3. フランチャイズ展開で実店舗を増やす
ワークマンの実店舗は、2018年に800店舗を超えている。日本のどこにいても、同じ商品を提供できることは、ワークマンの強みである。
これら店舗は、直営店ではなくフランチャイズによるもの。フランチャイズ展開を成功にさせるポイントはなんだろうか。
まずは、フランチャイズの内容だ。ワークマンには2つフランチャイズ契約がある。
- 売り上げに応じて収入が増える「成果報酬型」のフランチャイズ契約
- 収入を保証する「定額保証」の業務委託契約
この2タイプは店舗の売上に応じて決定されるため、店舗によって決まる。
ワークマンのフランチャイズのメリットは3つある。
- ロイヤリティは一定のため売上増加は収入増加につながる
- 年に2回の「褒賞金制度」で副収入が得られる
- 生活のリズムが崩れない
加点主義により、成果を上げれば必ず評価され報酬を得ることができる。さらに、営業時間が7時から20時と、生活リズムや体調を崩すようなことがない。
逆に、朝早いのが苦手だったり、結果が出なければ状況は厳しくなるだろう。
他にも独立する場合のバックアップ制度があるのも心強く、ワークマン自体が、フランチャイズ業界の中でもホワイトなフランチャイズを目指しているため、加盟条件は厳しいが、休みがない、残業が多すぎるといった事はないようになっている。
2-4. 優れた商品を提供すること以外の社会貢献
ワークマンのビジネスモデルとして上げられているものに「社会貢献」がある。衣服の販売と社会貢献にどのようなつながりがあるのかと疑問に思うかもしれないが、ワークマンでは優れた商品の提供に加えて地域のためにも活動しているのだ。
災害時に物資の提供をすることや、子供たちの教育や文化活動の向上、助成を行う「ベイシア21世紀財団」を通して地域に貢献している。他にも資源の削減や二酸化炭素削減にも積極的に活動しており、ワークマンにとっても社会に対する大切な活動だとしている。
3. 大注目のカジュアル服
ワークマンという企業について理解してもらうことで、新事業がより分かりやすいだろう。
いま、ワークマンが注目されているのは、カジュアル服の開発、販売を始めたことだ。そして、新事業が成功しており、株価も上昇しているというから、世間の注目度の高さが伺える。
カジュアル服は3つのブランドがあり、それぞれのテーマに合わせた機能性やデザインがある。
- アウトドア・・・FieldCore
- スポーツウェア・・・Find-Out
- 雨に強い防水機能・・・AEGIS
作業服の良さをカジュアル服にということで、どのブランドも「動きやすさ・雨に強い」のが特長だ。
3-1. 機能・デザイン良しの低価格
ワークマンが開発、販売するカジュアル服は、アウトドアとスポーツウェアに分けることができる。作業服で培った防寒機能は、体温を下げず、体を動かすことができる。また、防水機能は、突然の雨にも衣類を濡らすことがないから、安心して活動することができる。
しかし、こうした機能は従来のアウトドアやスポーツウェアのメーカーにもあるはずだ。なぜ、ワークマンが選ばれるのか?
ワークマンのカジュアル服は、作業服と同様に製造小売であり、低価格で提供されている。例えば、防水加工のパンツがメーカーでは6,000円程度で売られていたとする。ワークマンでは、同じ機能性があるパンツを2,000円程度で販売することができる。
さらには、デザインにも力を入れており、しっかりとしたリサーチも行なっているから、需要もある。
どちらを選ぶのかは、一目瞭然ではないだろうか。
4. 新規事業へのきっかけと戦略
新規事業も成功して、これからの躍進が楽しみだが、何がきっかけで挑戦したのだろうか?
4-1. 作業服のターゲット層に注目
「ワークマン=作業服」という、イメージがあるからターゲットは職人、一部の専門職だと誰もが思い込んでいる。
しかし、驚いたことに、ここ数年はターゲット層に混じるように、一般人が買い物に訪れているのだという。作業服が欲しいというよりは、機能性と品質の高さに惹かれて購入していることが分かった。
ワークマンは、新たなターゲット層が獲得できると考え、カジュアル服のシリーズを展開することを考えたのだ。
4-2. リサーチと評価はインフルエンサー
カジュアル服を開発、販売することを決めたワークマンだが、圧倒的に足りなかったのは、リサーチ力だ。
競合がいないから、リサーチをしていなかったわけではないが、流行に囚われることのない作業服と、デザインや流行に左右されやすいカジュアル服とでは、そもそものリサーチ方法が違うのだ。
そこで、ワークマンが考えたのが、インフルエンサーの力を借りることだ。
元々、カジュアル服が知れ渡ったきっかけは、SNSである。ワークマンのレインスーツが安くて良いと、バイク乗りの間で評判となり買い求める客が増えた経緯がある。
ライダーのインフルエンサーを集め、良さや改善点など意見を聞くことでリサーチしていくことになる。
また、インフルエンサーやブロガーにレビューや会議に出席することを条件に、商品を提供することで、より多くの一般人の意見を集めることにも成功している。
4-3. 街歩きにも適したデザイン
機能性に次いで、一般人にも受けがいいのはデザインだ。
アウトドアやスポーツウェアは、どちらも「場所を選ぶもの」が多い。つまり、着る機会が限られてしまう。
ワークマンはカジュアル服はもちろん、作業着に関してもデザインには力を入れている。せっかく良いものだから、街歩きにも抵抗なく着ることができたら、お客様の満足に繋がる。これこそが、ワークマンの狙いだ。
最近では、女性のターゲット層も伸びている。980円のスニーカーのデザインが好評で、ネットニュースでもコーディネートが紹介されている。見る限り全く違和感がなく、「私も欲しい」となるものだ。
5. ワークマンが競合に発展するのか
ワークマンが新事業である「ワークマンプラス」を展開したことにより、一般客の選ぶ幅が広がった。作業着=一部の専門職の人が着るもの、というイメージから脱し、機能性の高いファッショナブルな商品となったのだ。
冬場は特に防寒、防風のアウターをリーズナブルに購入できるなら、と思う人も多いだろう。もともとのコンセプトが作業着であるため、機能面に関しては定評がある。
ユニクロでも防寒、防風の機能性アウター等は販売しているが、もし同等の価格の場合はどちらを選ぶだろうか。その一般客の感覚を上手くとらえている所に戦略を感じる。
アパレルではセールで売り切ろうとすることが多いが、ワークマンではセールに頼らないため、常に低価格を維持することに経費や手間を惜しまない。
そのため、ワークマンの利益率はユニクロの利益率にも匹敵するようになっている。ワークマンの巧みなインフルエンサーの活用術が功を奏しているのがわかる。
ワークマン=作業着=ダサい、というイメージから、ワークマン=アウター=かっこいい、というイメージに変わっていくと、他のアパレルからは競合として目を付けられる可能性も高くなるだろう。
これはワークマンが絶えず挑戦し続けることが社員の行動指針となっていることが成功の秘訣と言えるのではないだろうか。
6. ワークマンから学ぶもの
ワークマンの新事業を通して、ビジネスモデルを紹介した。
近年、建設現場などで活躍する職人の作業着もオシャレなものになってきた。「作業着がダサい」という理由で、就職を嫌がる若者がいるという。これが理由で、人手不足となり作業が遅延するというのだから、深刻な問題だ。
服がオシャレだからといって、何が変わるというのか?と、疑問に思う人もいるだろう。しかし、確実にモチベーションは上がり作業効率が高まることは推測できる。また、購入する楽しみもできる。ワークマンの売り上げも伸びる。
まさにこの関係が、ワークマンが信条とするビジネスモデルだ。
カジュアル服は、元々の作業服を取り扱う店舗でも購入することができる。(品揃えは店舗によって異なる)一度、店舗に足を運んで従業員の働き方からもビジネスヒントを得るのもいいだろう。