AI時代の本格的到来を告げる「paintschainer」にみる、新たなビジネスモデル

2017年1月、日本のAI史、そして日本の誇る漫画やアニメといったコンテンツ産業にとって一大事となる事件が起こった。
paintschainerの登場である。このサービスは白黒の線画をアップロードするだけで、AIが勝手に着色してくれるというサービスだ。

すでにピーク時は1日38万PVを超え、国内外から大きな反響を持って受け入れられている。ごく身近でイメージしやすいサービスにまでAIの波が押し寄せてきていることを、paintschainerの登場は 告げている。

paintschainer

paintschainer

1. paintschainer とはどんなサービスなのか

paintschainer(ペインツチェイナー) はいわゆる「線画の自動着色サービス」である。
ペン画や鉛筆画で書いたイラストをアップロードすると、AIが配色を判断して自動で着色してくれるというものだ。

着色指定はAIに全面的に任せることもできるし、こちら側からヒント指定をすることで、ある程度狙った方向性での着色に仕上げてもらうこともできる。

使い方は非常に簡単。
まず、線画をpaintschainer のサイトにアップロード、そして「Colorize(着色)」ボタンををすだけ。しかも基本、無料で利用できるのだ。

このサービスは2017年1月に登場すると、瞬く間に世界中のユーザーの大反響を呼ぶことになった。

発表以来、プロ・アマを問わず利用者は増え続けており、サービス開始から2年経たないうちにすでに1日の最大アクセス数は38万PVを超えている。

イラストレーターの仕事そのものを変えるといわれている革命的なサービスで、日本の誇る漫画、イラスト、アニメ、といった映像コンテンツ業界にも衝撃を与えることになった。

そして、2018年、第21回文化庁メディア芸術祭で優秀賞を受賞。
コミケでのコンテンツ出展やイラストコンテストの開催、そして今後はスマホアプリ化を目指すなど、その影響力は広がり続けている。

2. paintschainer開発の経緯

2-1 開発者はなんと29歳の若きエンジニア

このpaintschainer 、開発したのはなんと29歳の日本人エンジニアである。
開発者の名は米辻泰山という人物で、PreferredNetworks社に所属するロボットエンジニア。

そう、AIの専門家ではなくロボットエンジニアなのである。
本人曰く、普段はロボット用のプログラミングや研究開発用のプロトタイピング制作に従事しているそうで、AIの専門研究者ではないとのことだ。

では、なぜそんな人物がpaintschainer を開発するに至ったか。
これも新しいビジネスをやろう、といった明確な意図のもとに生まれたものではないらしい。

もともと米辻氏はイラストを趣味で描いたり、さまざまな漫画作品を好んだり(本人によると乱読派だそうだ)といった志向はあった。
だが、直接のきっかけはアニメや漫画ではない。
たまたま所属するPreferredNetworksが開発したディ―プラーニング用のアプリである「chainer」を勉強していたことが契機となった。

その勉強中、同じ社内に、画像生成法「DCGAN」という手法でAIを使った画像生成を行っている同僚がいた。

その同僚に画像の自動生成法を習っているうちに、「あれ?この方法って線画の着色でも使えるんじゃないか?」と気づいたそうだ。

そこで、米辻氏はプログラムの構築に着手。
3つのニューラルネットワーク、すなわち「大まかに色を塗る」「正解との差分を見分ける」「詳細に色を塗る」を軸にAIプログラムを設計していった。

そこにお手本データのイラストデータ約60万件をAIに学習させ、汎用性の高い着色ツール「paintschainer」の基礎が組みあがっていった。
ただ、いくら大量のデータを学習させても、着色傾向の偏りが出るなどの問題はあったので、そこへフィードバック型の敵対的ネットワークを追加する、といった調整を繰り返し、現在のPaintschainer のかたちに到達していったそうだ。

2-2 使われている技術自体は既存のAI技術

米辻氏によれば、paintschainer に使われている発想や技術は、既存のAIプログラムの組み合わせに過ぎないらしく、AIの専門家からすれば何ら斬新なものではないそうだ。

ただ、そうした技術をある意味問外漢の技術者の視点によって、ユーザーライクなものに仕立て上げたという意味は大きい。

色塗りというクリエイティブな世界ではAIの出る幕はない、と思っていたはずの多くの人々にとって、きわめて高い精度での着色を実現するpaintschainerの登場は、かなり衝撃的なものだったのである。 

3. paintschainerの人気の秘密

paintschainer が瞬く間に人気を集めた理由は、その手軽さと着色の精度だ。
通常、線画を着色するときはペイントツールなどの専用ソフトを使う。

あくまでもこれらはツールなので、いわば絵の具と同じだ。線画をソフトに取りこんだ後に、細かく着色指定を調整し、重ね塗りや配色を入力して着色していく。

もちろん、着色はセンスと経験の問われる作業なので、プロのイラストレーターといえども、着色を苦手にする人は多い。
まして、アマチュアの絵描きにとっては着色は大きな難関の一つといえる。

デジタルツールの発展で作業効率は上がったとはいえ、色塗りにかかる労力や技量の差は絵を描く上で大きなハードルだ。

しかし、このpaintschainer は、なんとボタン1発で面倒な色塗りを完成させてくれる。色指定や調整も指示できるし、paintschainer に一切をまかせることも可能だ。

しかも、その仕上がりの精度がかなり高い。ユーザーのなかには「自分で着色するよりうまく仕上がる」といった声も多くあるくらいなのだ。

さらに、スキルの高いユーザーのあいだでは、すでにこのpaintschainerをどのように活用すれば素晴らしいイラストに仕上がるか、といった活用方法の研究も進んできている。

写真を撮りこんでそれを線画にし、その線画をpaintschainerで着色してフォトリアルなイラストを制作する、といった手法を公開しているクリエイターもすでに登場しているようだ。

このように、AI技術を使った便利ツールとしてだけでなく、ユーザー側が手法を試行錯誤、研究することによってその用途が拡大している、といったおもしろさが、paintschainer の魅力の一つと言えるだろう。

4. paintschainer の問題点

もともとpaintschainer は明確なビジネスモデルとして始まったものではない。
1人のエンジニアの思い付きが実を結び、多くの人々のあいだに反響を引き起こしていった、という事例だ。

そのため、予想外にアクセスが集中したことで肝心のサーバー容量が不足してしまい、急遽米辻氏の所属するPreferredNetworks社のサーバー5台を使用することで運営されている、といった実態がある。

米辻氏は今後はpaintschainerのスマホアプリ対応を検討中とのことだが、これに関しても同氏は所属会社の業務の合間に作業を進めることになるようなのだ。

すでに文化庁メディア芸術祭で優秀賞を受賞し、国内外のメディアやユーザーからも注目を集めているpaintschainerだが、個人的な活動をベースにしているので、将来的にどのようなビジネスモデルに発展していくかは未知数な部分も大きい。

もう1つ、弱みといえるのは着色のバリエーションだ。
現状でpaintschainerを使ったイラストレーションを見る限り、配色の精度は非常に高いものの、その仕上がりの方向性はどれも同じようなものに見える。

イラストとして個性のあるものを生み出すには、paintschainerをどのように利用するかという手法そのものを研究する必要がありそうだ。その点で、AI技術自体にまだまだ発展の余地があるといえるだろう。

5. paintschainerから学ぶ新たなビジネスモデル

paintschainerの登場をビジネスモデルとして見る面白さは2つほどある。まず、paintschainerは既存のAI技術をユーザーライクな視点から再構成したものだという点だ。

AIの専門家ではない技術者が制作した、というところもおもしろいポイントで、革新的な発見でなくとも、ユーザーのニーズを発掘すれば既存の技術から新しいプロダクツが生まれるという好例といえるだろう。

もう1つは、AI技術はクリエイティブな世界にもどんどん進出してくるだろう、という点。

もはや、AI技術から身を守れる聖域はないのかもしれない。
制作者の米辻氏も「人とAIが一緒にクリエイティブする時代はもう来ているんじゃないかと思っている」とのコメントを残している。

AI技術自体は驚異的なスピードで発展しているので、近いうちに一流クリエイターの創作物と比較して遜色のないものをAIが自在に生み出せるようになるかもしれない。

それは大きなビジネスチャンスであると同時に、いよいよ人間がいかにAIと共存しうるかを、多くの分野で真剣に考えるときが来ている、ということだろう。

6. paintschainerはAI時代を代表するビジネスモデルとなる可能性も

AIが自動で線画を着色する「paintschainer」は、日本人の若きエンジニアの斬新な発想から生まれた驚異的なサービスだ。

AIの領域外だと思われていたクリエイティブな分野に、AI技術が登場したことの衝撃は大きい。
ただ、既存のAI技術の集合体であること、開発者はAIの専門家ではないことなど、ビジネス的観点からも興味深い点が多いのが特徴だ。

その登場は、AI技術の本格的な到来を告げる、象徴的な「事件」だったといえるだろう。

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