特許ならばともかく、ビジネス特許は具体的にイメージがしにくいものだ。
そこで、ビジネス特許とは何かを解説し、次にビジネス特許として認められている具体例を紹介する。
また、ビジネス特許を取得するメリットなども説明する。
目次
1. ビジネスモデル特許とは
ビジネスモデル特許は、一時期はメディアに大きく取り上げられ、2000年ごろに特許申請のピークとなった。
特許は、有用な発明をした者、またはその承継人に代償として、一定期間、独占的にこの発明を使用する権利を保障するものである。
これによって、発明の意欲を喚起し、産業の発展を促す目的がある。
ビジネスモデル特許もこれと変わらない。
しかし、ダイナマイトや電話などと異なり、やや抽象的でとらえにくいのが特徴だ。
たとえば、トヨタのカンバン方式(在庫をできるだけ持たない生産システム)の特許など、具体的にどこが発明なのかわかりにくいものもある。
こうした特徴があるためか、特許庁は、ビジネスモデル特許を「ビジネス方法がICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を利用して実現された発明」と定義している。
具体例をあげれば、Amazonの「ワンクリック」などだ。
これは、ユーザー登録を一度すれば、次のインターネットショッピングではユーザーIDの認証だけで購入できるといったシステムだ。
ワンクリックは、ICTを利用しているので、ビジネスモデル特許として認められるわけだ。
他にも、逆オークション(リバースオークション)や投資マートシステムなどがある。
つまり、ビジネスモデル特許とは「ビジネスモデルの発明+ICT」であり、ビジネスモデル単体では特許が取得できないことである。
2012~2016年の特許庁の統計によると「Webサービス」「サービス業全般」の分野が2000~2500件ほどと突出している。
600~1000件ほどで金融、ヘルスサービスの分野が次に続く。
残りの分野は、多い年でも500件程度だ。
2. 実例1:プライスライン社「逆オークション」
ビジネスモデル特許について、より具体的に理解できるように、「逆オークション」の実例をあげて紹介していく。
逆オークションとは、通常のオークションとは逆で、買い手が売り手を選定する方法だ。
参照:https://itp.ne.jp/info/510000000000019741/lp/2/
たとえば、逆オークションのサービスを提供しているシステムがあるとする。
ここで顧客(消費者)が「コンサートのチケットを5000円で購入したい」という希望をサービス提供者に提示したとしよう。
サービス提供者は顧客の条件を販売業者に通知する。
すると、販売業者Aからは1万円、販売業者Bは6000円、販売業者Cからは4000円で販売する意志が提示されたとする。
この場合、最も顧客の希望に沿っているのは価格が安い販売者Cなので、顧客と販売者Cの取引が成立するだろう。
顧客にとっては、時間効率がよく、思いのほか安い価格で欲しいものが手に入ることもあり、画期的なオークション方法といえるだろう。
しかし、ビジネスモデルの発明だけでは特許にはならない。
逆オークションは、買い手と複数の売り手の取引をコンピュータを介して行っており、買い手や売り手のクレジットカードの番号とIDなどもコンピュータで管理されている。
また、インターネットも使われている。そのため、ビジネスモデル特許として認められているのだ。
3. 実例2:株式会社キャピタル・アセット・プランニング「個人ライフプランに基づく最適保険の自動設計装置」
「質問に答えていくだけで、あなたに最適なプランをご提示します」といったキャッチコピーを聞いたことがあるだろう。
「個人ライフプランに基づく最適保険の自動設計装置」は、これに似たビジネスモデルで特許を取っている。
まず、被保険者や家族に関するデータを入力し、被保険者の死後に発生する資産を見積もる。
すると、残された家族の生活費、葬式費用、相続税、被保険者が死亡した年に発生する一時的な資金といったさまざまな資金に分類される。
そして、これらの資金に合わせて、最もふさわしいと考えられる終身保険、定期保険などを被保険者に提示するシステムである。
このシステムを実現するにはコンピュータが用いられている。具体的にはノート型の携帯パーソナルコンピュータに各データの分類、最適な保険を提示するためのプログラム(ソフトウェア)を入れている。
実際は、保険会社の担当者がこの結果を見ながら、被保険者にかみ砕いて説明したり、被保険者の希望に合わせてプランを修正したりすることになるのだろうが、コンピュータなしにこのシステムは成り立たない。そのため、ビジネス特許として認められているのだ。
4. 実例3:株式会社丸満「婚礼引き出物の贈呈方式」
例外的であるが、ICTを使わないビジネスモデル特許もある。
「婚礼引き出物の贈呈方式」は披露宴の当日に引き出物を持ち帰らず、自宅に配送してもらうことを可能にするシステムである。
引き出物の贈呈者は、あらかじめ、ゲストの氏名、住所、希望配達日時などを調査しておき、リストを作成する。
このリストを元に、引き出物を扱う業者がゲストの自宅に配送したり、配送業者を手配したりするといったものだ。
常識的に考えて、誰でも思い付きそうなアイデアだと思う人は多いだろう。
ICTも必要がないといえる。
実際、当初は「単に人為的な取り決めに過ぎない」として、特許申請が却下されている。
しかし、特許申請人は利用しやすいように工夫しており「自然法則を利用した技術創作」だと主張し、特許が成立した。
このように、事例としてはかなり特殊であるが、ICTを伴わない例もある。
5. ビジネスモデル特許のメリットはマネタイズ部分を守るため
ビジネスモデル特許を含む特許の最終的な目的は、産業の発達である。
しかし、通常、ビジネスをする側にとって特許を取る目的は、マネタイズ部分を守ることが最も重要な点である。
ビジネスモデル特許は、ICTを利用して実現しているため、たとえば新薬などのように、全てのマネタイズ部分が守られるわけではない。
そのため、ビジネスモデル特許をとる現実的なメリットとは、参入障壁を設けられることだ。
特許を取っていれば、競合している企業や、後発で参入している企業はその部分を使えなくなる、あるいは使用するために許可を取らなければならない。
これによって、参入障壁が生まれるため、特許を取得した人、企業は先行者利益を獲得できるのだ。
6.ビジネスモデル特許の注意点
ビジネスモデル特許の取得を検討している人に向けて、ごく基本的な注意点を2つ紹介する。
6-1. ICTが必要不可欠の条件
1つめは、一般的にはICTが必要不可欠の条件でなければ、特許は成立しないと考えた方がよいことだ。
たとえば、電子メールを複数の人に送信してアンケートを実施し、返信メールの内容を集計して市場調査をするビジネスモデルを特許申請したとする。
この場合、電子メールやコンピュータを単に道具として使っているだけなので特許は受けられない。
なぜなら、電子メールではなく、手紙や電話、路上のアンケートでも同じことは可能だからだ。
ICTを利用しているが、ビジネスモデルのアイデアを実現するうえで必要不可欠とまではいえない。
また、商品の購入金額に応じてポイント還元率を決めるビジネスモデルがあったとする。
これも、単に売り上げがアップするだろうと考えて店側の人が還元率を決めているだけなので、特許申請は却下されるだろう。
6-2. 自ら事業化する場合に限られる
次に注意したいのは、ビジネスモデル特許を取得するメリットがあるのは、自ら事業化する場合だけであることだ。
もちろん絶対とは限らないが「ビジネスモデル特許を取ってライセンス料で稼ぐ」といった考え方はまず通用しないと考えた方がいい。
これはビジネスモデル特許が新薬などと異なり部分的にしかマネタイズが守れない特徴による。
また、ICTを使う以上、その特許を使用しなくても違う技術で同じようなことを実現してしまう可能性が高いためだ。
そのため、基本的には事業者として参入障壁を作る目的でビジネスモデル特許を取得したほうがよい。
7. ビジネスモデル特許は参入障壁を作りたい事業者が取得するもの
ビジネスモデル特許は、原則として、ICTが必要不可欠であるときに認められる。
しかし、ICTが特許の肝であるため、全てのマネタイズ部分が守られるわけではないし、他の技術によって代替されることもある。
だがそれによって事業者がビジネスモデル特許を取得して参入障壁を作れるメリットは大きい。
可能性がある技術等はぜひ申請を検討してほしい。