オンライン型調剤薬局・PillPack、根底にある優れたビジネスコンセプト

PillPackは、2013年に薬剤師のT・J・パーカーと、エンジニアのエリオット・コーエンが立ち上げた、オンライン型調剤薬局だ。

創業から4年足らずで従業員500人を超える大きなビジネスへと成長し、ついに2018年はあのamazonがPillPackの買収を発表。

これにより、医薬品の供給ビジネスに本格的にamazonという巨大企業が参入することとなった。

1. オンライン型調剤薬局「PillPack」のビジネスモデルとは

PillPack

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1-1 PillPackのビジネスモデル

PillPackは、アメリカのボストンで始まった調剤ビジネスだが、そのビジネスモデルは、説明してしまうととても簡単だ。

まず、アメリカの調剤の仕組みを押さえておこう。

基本的に日本と同様で、かかりつけ医から出してもらった処方箋を持って、近所の調剤薬局へ薬をもらいに行くという仕組みだ。

「PillPackは一体そこへ何を新しいビジネスとして持ち込んだか」ということなのだが、まず1つはオンラインで調剤してもらえるので、わざわざ薬局に出向かなくてもいいということ。
これは簡単に想像できるだろう。

もう1つ、PillPackが成功しているポイントがある。
それは、1回分の処方薬を個別包装して届けてくれるというものだ。

2. なぜ薬の個別包装が重要なのか

比較的几帳面で、重大な持病でもなければ毎日薬を服用することは少ない日本人には少し想像しがたい問題だ。

しかし、アメリカでは「薬の正しい服用」というものが社会的に大きな問題となっている。

2-1アメリカ社会の抱える「薬の服用ミス」問題

米疾病予防センター(CDC)によれば、アメリカ人の5人に1人が1日に3種類以上の薬を服用しているのが現状だ。

つまり、アメリカ国内だけでも約3,000万人もの人が、毎日いくつもの薬を必要としていることになる。

このうち、「約50%の患者が正しい服用を行っていない」という調査結果が、世界保健機関(WHO)から出ているのだ。

当然、服用ミスは重大な症状悪化につながり、時には死を招くような深刻な事例も多い。

アメリカの医学専門誌「内科医学紀要」などの調査結果によると、アメリカ国内だけで薬の服用ミスによる死亡者は年間12万5,000人以上にものぼるという推計もある。

たしかに、複数の処方薬を毎日自分で準備するのは大変だ。

薬によっては1日おき、2日おきという服用ペースの違いがある。
そのため、毎日正しい薬の服用を続けることは、至難の業になってしまうことも多い傾向だ。

「薬を服用し過ぎているのではないか」という問題はあるにせよ、患者側の薬の管理の困難さからくる「服用ミス」の問題は、もはや社会全体で取り組むべき課題といえるだろう。

2-2 PillPackの挑戦

PillPackは、「薬の服用に関する患者の負担」という点に注目した。

患者側の負担をできるだけなくし薬局側で毎日の処方薬について、「分量や種類を正しく管理して提供しよう」というサービスを始めたのである。

それが、「日にちごとに必要となる薬を1日分ごとに個包装する」というやり方だ。

このサービス内容自体は、説明されると実に単純なものだが、薬の流通業界にとっては「服薬の革命」ともいうべき画期的なコンセプトとなった。

個包装によって、「いつ何を服用したか」という服用履歴が明確になるし、認知症など介護の必要となる人であっても、正確な服用が可能となる。

しかも、介護側や医者側にとっても余計な負担やリスクが減ることにつながるため、単なるビジネス的な新しさを超えて、社会的価値の非常に高い挑戦となっているといえるだろう。

3. 「PillPack」創業にまつわるエピソード

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3-1創業者は田舎の薬局の2代目

PillPackを創業したのは、ニューハンプシャー州の田舎町で育ったT・J・パーカーという青年だ。

父親は薬剤師で、田舎で小さな薬局を経営している。パーカーは、少年時代から家業を手伝っていて、将来は店を継ぐために薬剤師になることを目指していた。

店を手伝うとき、パーカーはお客さんに処方薬を配達する業務を担っていたのだが、そこで、彼がのちにPillPackを立ち上げるきっかけとなった光景を目にすることになる。

3-2 パーカー青年の憂鬱

パーカーは、お客さんのもとへ処方薬を配達していたのだが、そこで目にするのはいつも乱雑に管理された薬の実態だ。

アメリカでは、それまで処方薬を袋で小分けする習慣がなく、たいていは大きな空き缶などの容器にまとめて薬を保管していることが多かった。

しかし、これでは複雑なペースや組み合わせを守った正しい薬の服用は難しい。

パーカーは、多くの配達先で薬の管理そのものが、患者にとってとてつもない負担となっていることに衝撃を受けた。

「何か薬局側でできることはないだろうか」と、考えたことがPillPackのキーアイデアへとつながっていくのだ。

3-3 創業への準備

パーカーは、その後、薬科大学へと進み薬剤師となった。
そこで、新しい薬局ビジネスを展開できないかと考えていたパーカーは、マサチューセッツ工科大学の起業コンテストに応募し、そこでエンジニアのエリオット・コーエンと出会う。

2人は2013年、ボストンでPillPackという、オンライン型の調剤薬局ビジネスを立ち上げた。PillPackの薬局としてのビジネスコンセプトは明確だ。

処方薬1回分ずつを個包装で処方し、患者の飲み忘れ、飲み間違いを防ぎ、健康に関するリスクを下げる。

そして、基本的に薬の

・処方申請
・処方
・配達

までをすべてオンライン手続きを進めることで、患者側の利便性をさらに高めるものだ。

4. 創業から現在まで

比較的順調な成長を遂げているPillPackだが、創業当初は従業人9人顧客は50人からのスタートだった。

創業当初は知り合いに手あたり次第メールを送っては営業を繰り返し、薬を販売していたそうだ。

創業者コンビも含めて9人しか従業員がいないので、薬の処方に関して重要になる「カスタマーサポート」については、薬剤師のパーカー本人が、ひっきりなしにかかってくる携帯電話で対応し続けていたという。

ともかく、最初の3年の間はシンプルなサービスを心がけていたというが、順調に経営規模を拡大し、創業から3年経ったころにはベンチャーキャピタルから、なんと約1億1,800万ドルの資金調達に成功する。

4-1急成長のきっかけとなった「Phamacy OS」

この資金をもとに開発したのが「Phamacy OS」というオンライン上の処方薬管理システムだ。利用者から送られた処方箋をもとに、PillPackの薬剤師たちは「Phamacy OS」へ情報を入力する。

そして、処方箋をもとに薬を準備し分配包装機に通していく。薬は、日にちごとに小分けされていき、

・日付
・時刻
・薬の種類
・服用量

などの重要情報がそれぞれに記載されるのだ。

仕分けされた薬は、「Phamacy OS」に内蔵された画像認識プログラムとAIによって、ミスがないかを厳格に判定されていく。

安全性が確認されると、処方薬を日にちごとに小分けした袋のロールを専用のディスペンサーにセットし、利用者のもとに郵送するのがサービスの流れだ。

このディスペンサーがデザインとしてもスタイリッシュで、利用者は無料の使い捨てタイプか、4色から選べる29ドル(約3,200円)のプレミアムタイプかのどちらかを選択できる。

この「Phamacy OS」の導入で、膨大な手間のかかる薬の小分けと一元管理という問題を、正確かつ大量にさばくことが可能となったのだ。

5. amazonによるPillPack買収

こうして急成長を遂げるPillPackに関して、2018年6月28日、衝撃的な発表がもたらされた。

それは、amazonによるPillPackの買収の発表である。

買収後の具体的計画はこの時点では明らかにされなかったが、すでにアメリカ全50州での薬局事業ライセンスを持つPillPackを買収したことで、amazonは全米での医薬品販売を可能とするビジネスパッケージを手にしたことになる。

買収額は10億ドル(日本円で約1,100億円)という憶測も出ているが、実店舗での薬の処方という従来の薬局のかたちに破壊的な変革をもたらすといわれている。

5-1 PillPack側にもメリットは大きい

現在のところ、この買収劇はPillPackにとってもメリットは大きいといえるだろう。

PillPackは、そのサービスの強みを生かして顧客を拡大してきた。

事実として、「PillPackの掲げる薬の服用に関する患者の負担の軽減」というコンセプトは多くの利用者に受け入れられている。

各リサーチ会社の顧客満足度調査でも、業界平均が満足度で100点中25点前後であるのに対して、PillPackはのきなみ80点以上という好スコアをたたき出している。

しかも、2019年時点ではPillPackは

・システム自体の利用料は無料
・送料も無料
・24時間365日オンライン上で薬剤師と相談できる

など、サービス内容はますます充実してきているのが実情だ。

ただ、ここからさらにネット販売のための巨大なフォーマットを1から構築するには、資金面においてもリスクは高い

そこで、PillPackはamazonという、EC市場の「王者」と組む選択をとったといえる。

このことによって、PillPackは来るべき世界展開への足掛かりをつかんだともいえるだろう。

6. PillPackの意外な展開

このように画期的な視点と高度なテクノロジーを武器に急成長しているPillPackだが、ここへ来て面白い展開を見せている。

6-1 リアル店舗の運営にも乗り出す

なんと、2019年前後からPillPackが重点的に取り組み始めたのが、リアル店舗の開設だ。
サンフランシスコなどの大都会を中心に、次々に店舗をオープンさせる予定だ。

こうした店舗によって、利用者に対して創業者のパーカー親子が営んでいたような「田舎の親しみやすい薬局」としての体験をもたらそうというのだ。

ただ、これは単なる懐古主義という単純なものではない。

強固なテクノロジーの基盤があったうえに、アナログ面での窓口も強化していく複合的な戦略だ。

リアル店舗があれば、緊急時や早めに薬が欲しいときはスピーディーに処方してもらえるのだから、窓口はオンラインや店舗を問わず、多く用意しておいたほうがいいことになる。

7. PillPack根底にある優れたビジネスコンセプト

PillPackのビジネスモデルの根底には、薬の服用に関する患者側のリスクや労力を軽減する社会的意義のある明確なコンセプトがある。

この揺るぎのないコンセプトは、アメリカだけでなく全世界での通用するものだろう。

したがって、今後はPillPackの提供するサービスは世界規模で大きく展開していくことが予想されているのだ。

  
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