サウジアラビアの国営企業であるサウジアラムコがIPOを実施した。その結果、アップルの時価総額を倍近く上回り、世界最大の公開企業になったのだ。
石油メジャーのエクソンモービルと比べても実に5倍だ。
世界のビジネスの様相が一変するのではないかと期待や懸念を抱く人も多いのではないだろうか。そこで、サウジアラムコの時価総額や事業内容、今後の課題などを紹介する。
出典:サウジアラムコ
目次
1. 成功?失敗?サウジアラムコのIPOの概要を紹介
ここではメディアで話題となったサウジアラムコのIPOの経緯や背景、他国への影響などを紹介する。
1-1. 世界最大の公開企業が誕生
2019年11月、サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコは、株式を上場することを発表した。
そして別の場でムハンマド・ビン・サルマン皇太子は「この新規株式公開(IPO)によって、サウジアラムコの時価総額は約2兆米ドル(約216兆円)を超える」と高らかに宣言したのだ。
だが、蓋を開けてみれば、サウジアラムコは当初予想されていた規模を縮小し、株式の1.5%を公開するのにとどまった。規模を縮小したのは、海外機関投資家らの信頼を獲得できなかったためだといわれている。
それでも、このIPOによってサウジアラムコの時価総額は1兆7100億ドルとなった。2019年11月現在においては、アメリカのアップルを抜いて世界最大の公開企業が誕生したのだ。
1-2. IPO実施の背景
サウジアラムコがIPOによる資金調達を本格的に検討しはじめたのは、2014年ごろとみられている。この時期には石油価格の下落が進んでおり、石油を販売するだけでは企業を成長させていくことが困難な状況になったからだ。
加えて、二酸化炭素を排出する石油事業は、地球環境保護の観点からも、投資をすべき対象ではないとみられるようになってきた。資金調達により石油頼みの状況を脱却しようというのが、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子やサウジアラムコの経営陣の目論みといわれている。
1-3. なぜこれほど注目されたのか
時価総額のインパクトは確かにすごいものの、なぜこれほどサウジアラムコのIPOがメディアで書き立てられたのだろうか。
それは、もしサウジアラムコが自国での上場で成功した場合には、他国での上場につながるからだ。
たとえば、東証はサウジアラムコの上場に大きな関心を示している。また、世界最大のマーケットであるニューヨーク証券取引所においても、上場の可能性が高いとみられているのだ。
2. 国と一心同体!サウジアラムコのビジネスモデルとは
アップルやグーグルが時価総額1兆ドルを突破した際は、大いに話題になったものだ。しかし、それを軽々と抜き去ってしまったのがサウジアラムコである。
キャッシュフローで比較しても、エクソンモービルやロイヤル・ダッチ・シェルなどの石油メジャーの2~3倍ほどとなっている。どのようなビジネスモデルを持っているのだろうか。
2-1. 事業内容はシンプル
世界規模の巨大企業になるほど、事業は多角化していくものである。だが、サウジアラムコの事業内容は、石油の採掘・加工・販売、石油関連商品の製造・販売など、ほぼすべてが石油に関連している。
つまり、石油収入に頼っている状態なのだ。新たな事業を模索しているが、今のところ事業の多角化は進んでいない。
2-2. 国の手厚い保護が受けられる
サウジアラムコは国営企業のため、国の手厚い保護のもとビジネスを展開できる。
石油収入に依存する以上、事業収入が石油の価格変動に大きく左右されてしまう面があるが、経営を安定させるために、国レベルで介入することも可能なのだ。
2019年大阪サミットの際には、サウジアラムコの実質上のトップであるムハンマド・ビン・サルマン皇太子が、日本に来日した。両国の緊密な関係強化を確認した内容のなかには、サウジアラムコに関わることもあったに違いない。
一企業を超えた国家事業として経営されているのが、サウジアラムコの特殊な点と言える。
2-3. 法人税・ロイヤルティーの割合が高い
国営のメリットも大きいが、逆にデメリットもある。それが、法人税とロイヤルティーの割合が高いことだ。サウジアラムコは法人税を50%も支払っている。
さらに、サウジアラビア政府に対して20%以上のロイヤルティーも支払わなければならない。このロイヤルティーは原油価格の相場によって変わる。1バレルあたり70ドル(約7000円)までは20%、70~100ドルで40%、100ドル以上で50%と決まっているのだ。
3. サウジアラムコの企業分析
ここでは、時価総額において世界第1位のサウジアラムコの財務状況を紹介する。
3-1. 純利益も世界一
サウジアラムコの2018年の純利益は1111億ドル(約12兆4000億円)。アップルの600億ドルを大きく上回り、世界最大の利益をあげているのだ。
石油メジャーのエクソンモービルと比べても5倍以上なので、いかにサウジアラムコが巨大な企業なのかがわかるだろう。
3-2. 事実上の無借金経営
サウジアラムコの事業からもたらされるキャッシュフローは521億ドル(約5兆2100億円)だ。この数字もエクソンモービルやセルに比べてはるかに大きい額になっている。
しかも、ネットの有利子負債がわずか13億ドル(約1300億円)しかなく、事業規模に比べて非常に少ない額であるのも特徴だ。つまり、サウジアラムコは事実上の無借金経営の企業と言える。
4. ロックフェラーから奪還!サウジアラムコの成功の秘訣は
サウジアラビアの国営石油会社のサウジアラムコは、かつてはアメリカ企業の現地法人に過ぎなかった。どのようにして世界最大の公開企業へと成長したのだろうか。
4-1. ロックフェラーが所有
サウジアラムコは、ロックフェラー家が所有するスタンダード石油カリフォルニアにおける、サウジアラビアの現地法人だった。
アメリカがサウジアラビアでの石油開発の権益を獲得して以来、ロックフェラー家が利益を効率的にくみ上げるための企業であったと言える。
4-2. 独立の機運に乗じて国営企業に
1960年代に、産油各国においてナショナリズムの台頭が起きた。そのなかで、欧米から搾取されつづける状況に不満を抱いていたサウジアラビアも、石油会社を奪おうと試みる。
1970年ごろから、サウジアラビア政府はサウジアラムコの株式取得を始めた。手始めに25%の株式を取得し、その後1970年後半にかけて60%、1980年代には100%を取得し、国営企業にしたのだ。
一概に言えない面もあるが、サウジアラムコの強みは国民の豊かな生活への渇望を背景にして国ぐるみで成長を続けてきたことと言えるだろう。
5. サウジアラムコの今後の課題
時価総額世界1位となったサウジアラムコだが、将来も順風満帆というわけではない。ここではサウジアラムコの今後の課題を紹介する。
5-1. 会計が不透明
サウジアラムコは、莫大な純利益や実質上の無借金経営にもかかわらず、格付け機関からは十分な評価を受けていない。
たとえば、ムーディーズはサウジアラムコの格付けをAとしており、エクソンモービルのAAAに比べて信頼性が劣ると評価している。
おそらく、財務データに不透明な部分が多く、数字をそのまま受け取ることができないことが影響したものとみられている。ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、今回のIPOによって国有企業を一般の株式会社に近づけられたと語っているが、海外投資家の懸念は十分に払しょくできていないようだ。
5-2. 石油事業に頼りすぎている
すでに紹介したように、サウジアラムコの事業のほぼすべては石油事業である。そのため、今後も原油価格の変動をもろに受けてしまうことは避けられないだろう。
加えて、地球温暖化の防止や二酸化炭素削減の動きが強まるなか、ほかの企業がサウジアラムコに投資しにくい背景もある。
ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、ソフトバンクビジョンファンドへの投資を主導したといわれるなど、石油依存の体質改善に積極的だ。サウジアラムコの経営においても、その基本路線は変わらないため、今後の取り組みに注目が集まっている。
5-3. 政府との密着
サウジの反体制派記者、ジャマル・カショギ氏が拷問されたうえ殺害された事件は、国際社会の非難を浴びた。
こうした事件は過去にもあり、今後も起きる可能性が高いとみられている。サウジアラムコはサウジアラビアの国営企業であるために、どうしても政治の色眼鏡を通してみられることになるだろう。
「人道的にサウジアラムコと組むことは許されない」などという声も多いのだ。事件が大きく報道されるなか、ソフトバンクの孫社長が、サウジアラビアの企業との連携に言及しなかったこともあった。
また、サウジアラムコの石油施設が(サウジアラビア政府の主張によれば)イランに爆撃されるなど、国同士の紛争にサウジアラムコが巻き込まれるリスクもある。
こうした不安定要素をいかに取り除くかが、サウジアラムコの大きな課題のひとつになるだろう。
6. 日本市場に大きな影響が出る可能性も!サウジアラムコに今後も注目しよう
新規株式公開(IPO)によって、時価総額1兆7100億ドルになったサウジアラムコは、アップルを抜いて時価総額世界第1位となった。
豊富な石油資源や国営企業の強みを背景として、今後も大きな影響を世界に与え続けるだろう。
東証にサウジアラムコが上場する日も近いのかもしれない。今後のサウジアラムコの動向に注目したいところだ。