モノづくりに特化し、「メイカーズ」や町工場のために生まれたサービス「zenmono」。従来のクラウドファンディングとは一線を画し、有効活用することで資金以外も調達することができる点に注目が集まっている。独自性を高めながらも質の高いサービスを展開しているzenmonoの実態を紹介していく。
目次
1. 従来のクラウドファンディングにはなかったビジネスモデル
働き方改革、超高齢社会、さまざまな社会問題が生まれる中で、それらを解決するためのロボット産業の発達はめざましい。IT業界と製造業の距離は日に日に近付いていく。
しかし社会問題を解決するモノづくりが求められる町工場や、2005年に出版されたアメリカ発のテクノロジー系工作情報を集めた専門誌「Make」により誕生した、新しいモノづくりに挑戦する人を指す「メイカーズ」にとっては、資金繰りのほかにも、企画やデザイン、製造、販売までの道筋を持っていないなど、問題が山積みである。
1-1 メイカーズが抱える問題を「資金以外も調達できる」という新しい手法で解決
そのような問題を解決するために誕生したのが、モノづくりに特化したクラウドファンディングサービス「zenmono」である。
zenmonでは資金調達できることはもちろん、資金以外も調達することができる画期的なサービスを取り入れている。
たとえば、アプリ開発を行うエンジニアやデザイナー、量産を担うメーカー、販路を作るセラーなど、作りたいモノに対して必要とされる「人」を、資金と一緒に集めることができる新しいビジネスモデルを確立している。
2. zenmonoの仕組み
zenmonoが提供するプラットフォームの具体的な中身を見てみよう。
資金以外の調達が最大の特徴ではあるが、資金調達する際にもおもしろい手法が取られているため、ユーザーの満足度が高いのもうなずける内容である。
2-1 7種類のサポーター制度
zenmonoがメイカーズに向けた充実のプラットフォームといわれているのは、サポーターと呼ばれる制度のためだ。
zenmonoには、支援を呼びかけることができる7種類のサポーターが存在する。
プロダクトなどのデザインで協力してくれる「デザイナー」、製品を量産する際に協力を呼びかける「メーカー」、マーケティングのノウハウを提供する「マーケター」や販路開発を協力してくれる「セラー」はもちろん、経営的なアドバイスをくれる「メンター」も存在する。
そしてそれ以外を包括的にサポートしてくれる「スタッフ」がおり、それぞれの局面で全面的にメイカーズをバックアップしてくれる体制を整えている。
実際に製品を開発していく中で、資金調達は達成してもそのほかの欲しい分野が欠けており、求める製品自体の完成にまでは至らないという問題を、7種類のサポーター制度で解決に導いている。
地力が少ない企業やメイカーズにとっては特に、開発資金と一緒に開発プロセスを構築していくことができるため、外部に劣らず高い実現性で製品を開発していけるのがzenmono最大の特徴である。
2-2 資金調達率100%を実現する「All or nothing方式」
zenmonoでは、設定された目標金額を100%以上到達しないとパトロンから課金されない「All or nothing方式」を採用している。この手法により、資金調達率は実質100%を誇っている。
All or nothing方式により、あらかじめ設定した金額に到達しない限り、パトロンがいくら支援してもその金額は支払われず、目標を達成して初めて課金されることになる。
これにより確実に製品開発に取り組めるため、ユーザーは資金不足の問題を解決することができる。
All or nothing方式はパトロンにとってもメリットがある。
目標達成したユーザーはパトロンに対して対価を払う義務が発生するが、確実な資金調達によりパトロンは完成する製品をいち早く手に入れられる。
実際には目標を達成すると、支援総額の85%がパトロンのクレジットカードから支払われ、残りの15%がzenmonoに支払う手数料となる。
クレジットカード決済手数料はzenmonoがもつため、パトロンとユーザー両者の負担は軽減される。
企業からの資金支援も当然受け入れる体制を整えており、銀行口座からの振り込みにも対応しているため、ユーザーにとっては資金集めへの期待値も高い。
また、仮に目標金額に達成しなかったとしても、そのままサイト上に掲載し続けることができ、何度失敗してもチャレンジすることもできる。
前回募った人的資源はそのままに、新たにプロジェクトメンバーを募集などしつつ、より完成されたプロジェクトを構築していくことも可能であるため、自分のアイデアをアップデートしながら製品開発に取り組める。
3. モノづくりのプロでなくてもアイデアを発信することができる
zenmonoではより広くメイカーズのためのプラットフォームであろうとしている。たとえば、個人のメイカーズがあるプロジェクトを掲載申請する段階で、量産工場が決まっていない場合は、zenmonoが最適な町工場と引き合わせをしてくれる制度を設けている。
決してプロのメイカーズばかりとは限らない中で、モノづくりのアイデアを失わない取り組みだ。
3-1 モノづくりの疑問を解決した上でプロジェクトが開始される
まずは引き合いしてくれた町工場と技術打ち合わせを繰り返し、量産できる可能性を検証する。
そのうえで原価計算などを行っていき、メイカーズをフォローしていく。
つまり、メイカーズ側にモノづくりに対して不明な点があっても、zenmonoを介してあらかじめ町工場というプロと一緒に、プロジェクト掲載をスタートできるサービスだということだ。
申請内容を選考したあと、直接面談かビデオ面談を行ったうえで、町工場との引き合いをしてくれるかどうかが判断される。
面と向かった信頼関係のもとに紹介されるので、ユーザーからの信頼を失わない仕組みが組まれていることにも注目したい。
4. 「zenschool」で製品企画をサポート
zenmonoで製品開発プロジェクトを掲載する前に、「zenschool」で製品企画をサポートしてもらうこともできる。zenschoolとは、企業の経営者や起業家が「心からやりたいことを見つける学校」をコンセプトに運営されているサービスのことだ。
4-1 経営者への「課題を発見する力」を育てるサービス
経営者はzenschoolで自社製品やアイディアに対する課題を自ら見つけ、それらを解決しより良い製品やサービスを生み出していく力を身に付けていく。
zenschool受講後は、zenmonoにプロジェクトを掲載することによりマーケティングを実践し、かつ実際のマーケット評価も得ることができる。
2019年5月現在、zenschoolは22期目を迎え、開講から高い人気を保ち続けている。
中には、会社全体の売上が受講前の実に500%を越えた企業や、製造業から製造業+美術館運営へ変化した町工場など、おもしろい事例やめざましい成長を遂げた企業も多数ある。
zenschool受講後、クラウドファンディングに挑戦した24件のプロジェクトはすべて資金調達に成功しているなど確かな実績を誇っており、zenmonoでいきなりプロジェクトを掲載することに迷っている人をサポートする体制も整っている。
zenschoolはテレビ東京「ガイアの夜明け」にてクローズアップされるなど、非常に高い注目を集めている。
5. 「マイクロモノづくり」で町工場の再生を図る
zenmonoに最終的に期待されるのは、大手メーカーからの仕事が激減した中小の町工場が自ら、製品の企画から販売までもを通貫して行う「マイクロモノづくり」という概念の浸透だ。
新しい製造の担い手となるメイカーズはもちろん、IT業界などとのタッグによる町工場の再生、新生を目指している。
5-1 「マイクロモノづくり」の概念で社会変革を目指す
甚大な社会的被害をもたらしたリーマンショック後、大手メーカーの生産地は加速度的に海外へと移転を始めた。
さらに追い打ちをかけるように円高が進み、特に地方の町工場は深刻なダメージを受け続けている。
この現状を打破する考え方が「マイクロモノづくり」であり、それに基づくzenmonoという新しい形のクラウドファンディングだろう。
社会的な背景をくみ取りながらサービス展開している点も、評価される理由の一つだ。
6. ある分野に特化した新しい形でのクラウドファンディング
マネタイズにおいて重要なことは、独自性があるサービスかどうかだ。
zenmonoはほかにはない独自性や、メディアにも取り上げられる注目度の高さから、今後人気が爆発する可能性も高い。
飽和状態のクラウドファンディングにおいて、視点を変えてある分野に特化したサービスなら、一定数以上の顧客を獲得できるチャンスもある。