台風から電気? エネルギー業界に新風を起こす株式会社チャレナジー

原油や天然ガスといった資源の少ない日本では、再生可能エネルギーの拡大普及が急務とされている。

そんな中、東京下町のベンチャー企業が開発した新しい風力発電機が大きな注目を浴びている。

株式会社チャレナジーが開発した「垂直軸型マグナス風力発電機」だ。

本記事では、いま注目を集めているベンチャー企業の事例として、彼らがどのようにして成功していったのか? 紹介していこうと思う。
きっと、いま新しいビジネスを立ち上げようとしている企業にとって、何かの役に立つはずだ。

1. 再生可能エネルギーとは

太陽光や地熱、風や水など自然を利用して作られる電力を「再生可能エネルギー」という。

日常生活に欠かせない電気やガスなどのエネルギーの原料となるのは、主に石油や石炭、天然ガスといった化石燃料だ。

資源が乏しい日本では、そのほとんどを海外からの輸入に頼っている。

そのため市場や国際情勢の影響を受けやすく、価格が安定しないという欠点がある。

また、化石燃料は燃焼時に温室効果ガスを排出するため、地球温暖化にも大きく影響している。

1-1. 再生可能エネルギーにおける世界の見解

2016年のパリ協定では「世界の平均気温上昇を1.5℃に抑える努力をすること」
「できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には温室効果ガス排出量と森林などによる吸収量のバランスをとること」などが合意された。

そこで「温室効果ガスの排出を押さえ、かつ国内で作り出せるエネルギー」として、再生可能エネルギーの普及拡大が急がれている。

日本では再生可能エネルギーがどのくらい普及しているのだろうか。
2016年の発電電力量を見ると、水力をのぞいた再生可能エネルギーが占める割合は6.9%とされている。

これは世界の主要国と比べるとかなり低い数値である。国際エネルギー機関(IEA)が発表した2015年のデータでは、ドイツでは電力量の27.7%を再生可能エネルギーでまかなっているという。

そのほか、スペイン25.2%、イギリス24.0%、イタリア23.6%など、ヨーロッパ諸国は世界的に見て再生可能エネルギーによる発電量が高い傾向にある。

2. 世界初の風力発電機を作り出したベンチャー企業

チャレナジー

再生可能エネルギーの活用が進んでいるヨーロッパでは、風力発電が主流となっている。
特に海に風力発電機を設置する「洋上風力発電」が盛んだ。
ヨーロッパの海は風の状態が良く、発電効率が高い。

また、海岸から遠浅の地形が続くなど自然環境にも恵まれている。
一方、日本はというと風の向きや強さがまちまちで、プロペラ式の風力発電機では安定した電力の供給が難しい。

陸上では風力発電に適した土地が少なくなっているため、海域の利用も進められている。

しかし、日本周辺の海は急に深くなる地形で、地震も多い。厳しい環境へ適応できるかの実証実験段階だ。

また、日本は台風が頻繁に通過するためにプロペラが折れるなどの被害も起こりやすい。

こうした地形的な特徴を考えると、「日本は風力発電には向いていない」と誰もが考えるのではないだろうか。

しかし、むしろその強大な台風のエネルギーを利用することを考え、まったく新しい風力発電機を開発した企業がある。
2014年10月に東京都墨田区に誕生した「株式会社チャレナジー」だ。

プロペラ式よりも丈夫で、プロペラ式よりも低コスト。

強い風にも影響を受けずに安定した電力を作る風力発電機として開発されたのが、プロペラを持たない「垂直軸型マグナス風力発電機」である。

3. 従来の風力発電の弱点を克服した「垂直軸型マグナス風力発電機」

資料:株式会社チャレナジー

垂直軸型マグナス式風力発電機には、従来の風力発電機に見られるプロペラがついていない。
代わりに円筒形の翼が縦に3つ並んでいる。

この翼が風によって回転したときに起こるマグナス力を利用して発電する仕組みだ。マグナス力とは気流の速度差によって生じる揚力のことを指す。

野球のカーブやスライダーなどと同じ原理だ。プロペラ式の場合は上下に気流の速度差が生じるが、垂直軸型の場合は横方向に速度差が生まれる。

気流の速度差で翼が回転し、内部の発電機に力が加わり電気を作る仕組みだ。

従来のプロペラ式は強風にもろく、風による異常な高速回転でプロペラや支柱が折れることもあるという。

このような事故を防ぐために、台風のときには強制的に停止させなくてはならない。
プロペラの回転音による騒音も問題になる。

一方、垂直軸型マグナス式風力発電機は風の向きや強さの影響を受けにくい。
円筒翼の回転数を制御できるため、台風に備えて停止する必要もない。

台風でも本当に発電できるのか、台風に耐えられる強度があるのか。

そのフィールドテストを行うために、垂直軸型マグナス風力発電機が2016年8月に沖縄に設置された。

9月6日に台風13号が接近したが、暴風の中でも問題なく発電することが確認された。
9月28日には台風18号が久米島に上陸し、特別警報が発表されるほどの暴風雨に見舞われる。

そこでは強風の影響を受けずに安全に停止状態を継続できるかが実験され、こちらも問題ないことが確認された。

4. 安心安全な電気を! きっかけは東日本大震災

垂直軸型マグナス式風力発電機を開発したのは、株式会社チャレナジーの代表取締役CEOの清水敦史氏だ。

そのきっかけは2011年3月11日に発生した東日本大震災だった。

当時、大手電機メーカーで研究開発職にいた清水氏は、地震によってもたらされた原発事故を見て「安心安全な電気」を供給する新しいエネルギーの開発を決意した。

会社員を続ける傍ら、休日にホームセンターで材料を買いそろえ、手作りで試作機を作りはじめる。

円筒翼は発砲スチロールで作り、パイプやネジを組み合わせて仕上げた。

初めての試作機の円筒翼は高さ約30cm。

やがて高さ1mの繊維強化プラスチックになり、沖縄での台風実験には高さ3mの円筒翼を使用したという。

沖縄での実証実験を成功させ、次の目標は垂直軸型マグナス式風力発電機の普及および量産化だ。

4-1. 海外進出

同時に海外への普及もすでに進められている。

日本と同じように台風被害の多いフィリピンだ。

フィリピンには小さな島々が多く、集落単位での小規模なディーゼル発電が主流だという。

ディーゼル発電はコストが高いため夜間しか電気を使えないところもある。
こうした不便を解決すべく、2018年5月、フィリピン国営電力公社との協業で垂直軸型マグナス式風力発電機普及に向けた合意を締結した。

2019年にはフィリピンでの実証実験を開始し、普及を進めていく予定だという。

5. 日本がエネルギー大国になるかもしれない?

まったく新しい風力発電機を生み出した清水氏の視線は、さらに未来を見つめている。

台風から作り出した電気で海水を電気分解し、水素を作ろうというのだ。

水素エネルギーは、燃料電池自動車(FCV)や燃料電池バス(FCバス)の動力としてすでに利用されている。

また、家庭用の燃料電池「エネファーム」も水素エネルギーを利用して電気と熱を作るシステムだ。

水素は水や化石燃料、汚泥、廃プラスチックなどさまざまな資源から生成できるという特徴を持つ。

さらに燃焼時にCO2を排出しないことから、クリーンな次世代エネルギーとして注目されている。

周囲を海に囲まれている日本は水素を作り出す資源に恵まれた環境だ。

垂直軸型マグナス式風力発電機を使って風から電気を作り、海水で水素を作ることで、エネルギーを完全自給できる可能性があるという。

水素エネルギーを大量に作り、海外に輸出することも考えられる。

水素エネルギーに関する技術で世界のトップレベルにいるのが日本だ。

燃料電池における特許出願件数は、日本が世界一だという。

水素エネルギーそのものの輸出はもちろん、技術を輸出することも国際貢献だ。

清水氏が掲げる「風力発電にイノベーションを起こし、 全人類に安心安全な電気を供給する」という夢が実現するのは、そう遠くないのかもしれない。

6. 「次の世代に持続可能な社会への道筋を示すこと」

大気汚染や地球温暖化などの環境問題が叫ばれて久しい。

垂直軸型マグナス式風力発電機を開発した清水氏は「次の世代に持続可能な社会への道筋を示すことは、私たちの世代の責務」と言う。

台風を利用した発電、そして海水を利用した水素エネルギーの生成など、注目度は高まるばかりである。

  
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