2015年頃、中国人観光客による「爆買い」が話題となった。同年の流行語にも選ばれたほどで、百貨店などを中心に日本中が影響を受けた。
以降は失速したとされているが、実際はどうなのだろうか。爆買いに至る理由や経済効果、現状など、爆買いについて改めて考えてみよう。
目次
1. そもそも爆買いとは?概要を押さえよう
そもそも爆買いとは、日本を訪れた中国人観光客による日本製品の大量購入を指す。2014年頃からはメディアでも爆買いという言葉が多用され、一般にも浸透した。
特に2015年2月頃には各地で爆買いが行われていたが、このような行為は2008年頃から増加傾向にあった。ドライヤーや炊飯器など日本製の家電や、目薬や風邪薬などの医薬品および化粧品が爆買いの対象となるケースが多い。東京ばななや白い恋人など、地域限定の土産物も人気だ。
このため百貨店やドラッグストア、家電量販店を中心に、日本中の小売店で売上が大きく伸びた。2015年は前年比2~6倍の売上高を記録した店舗も少なくない。
しかし、2016年も後半となると爆買いの勢いにも失速が見られ、2016年の中国人観光客1人あたりの消費額は前年より18.4%減少した。そのため、一過性のブームだと認識されている面がある。
2. なぜ訪日中国人は爆買いに至ったのか
インバウンドのなかでも、中国人による爆買いの消費額は飛び抜けている。そもそも、爆買いはなぜ起こったのだろうか。その理由を解説する。
2-1. 円安など日本製品が安く思える要因が重なった
爆買いのピークとなった2015年は、2010年代でも随一の円安・元高の時期であった。2013年4月より日銀が実施した金融緩和策は「黒田バズーカ」とも称されるほどの爆発的な円安および株高をもたらした。
日本円の価値が下がったことで、中国人にとっては日本製品も日本旅行も、日本のあらゆるものの費用が一気に安くなったのだ。最も円安であった時期には、中国では10元前後の日用品ですら、日本の100円ショップでは元換算すると5元程度で買えるようになった。
また、2014年の10月からは、免税店における免税販売の対象となる商品分野が拡大した。食品や薬品などの消耗品を含めたすべての品目が対象となったのだ。
免税に対応するドラッグストアや百貨店が増え、その情報は中国にも広まった。日本での消費を後押しする施策の実施とも相まって、多くの中国人が日本を訪れた。
2-2. 中国の国としての要因と日本製品への安心感
中国は今や、米国に匹敵する規模の経済大国となった。日本という国外で大量購入することで結果的な節約を図るような、大規模な消費行動を実行に移せる富裕層が増えたことも爆買いの要因として大きい。中国では成長とともにインフレが進み、物価がかなりのスピードで上昇している。
しかし、国の規模こそ成長しているが、まだまだ自国の製品の品質に不信感を覚える中国人が多いのが現状だ。一方、日本はアジアの先進国として、中国国内でも製品の品質が認められている。
価格も中国製品より安い場合が少なくないため、多くの中国人が安くて信頼できる日本製品の購入に走るのだ。同じ日本製品であっても、化粧品など適用される税制によっては、中国で買うより日本で買って持ち帰ったほうが価格を半額程度に抑えられるケースも多い。
2-3. 旅行者が友人にも購入している
特に爆買い客が目立った2月という時期は、中華圏では年で最も重要な祝祭日である旧正月、春節にあたる。中国では大型連休となり、羽を伸ばせる旅行として訪日した中国人も多い。
特に2014年前後は中国人訪日客に対するビザが発給されやすくなった時期でもあり、団体ツアーなどを利用して初めて日本を訪れる中国人も多かった。そのため、財布の紐が緩んだり、団体ツアーのスケジュールがタイトであったりなどして、通常の買い物が結果的に爆買いとなったケースもある。
自分用だけでなく、友人や知人にも買っている中国人も少なくない。すべての中国人が日本に行けるわけではなく、また中国には友人を大切にする文化が根づいている。
最終的には一人ひとりの元へ分配されるとはいえ、友人用も含めて同じ家電を10個以上まとめて購入している場面を見かければ、現地の人間の目からは爆買いとして映ることだろう。
3. 爆買いの経済効果と現状
爆買いは、日本にとって大きな経済効果をもたらした。しかし、一過性のブームとして認識されている以上、その恩恵を安定して受けられているわけではないのが現状だ。
3-1. 爆買いによる経済効果
2015年2月の訪日中国人がもたらした消費額は、日本円にして約1125億円にものぼる。2014年2月における全国の百貨店の売上高は4430億円であったので、爆買いだけで百貨店売上高の4分の1ほどの経済効果を得られた計算だ。
この時期は消費税が8%に上がった影響を受けている期間でもあったので、爆買いをする中国人の存在は小売店にとっては救世主として映ったことだろう。富裕層も多いため、家電などだけでなく薬品などでも、1つ1万円以上の高級品が何個も売れるシーンも少なくなかった。
3-2. 爆買いの現状
2016年10月の訪日外国人消費動向調査では、訪日客による消費額が4年9カ月ぶりに減少に転じた。2016年5月の免税品売上高は前年比16.6%減となり、2014年~2015年にピークを迎えた爆買いブームの終了を決定的なものとした。
2015年末からは円高の傾向が高まり、中国人にとって価格面での魅力が薄れたのだ。また、中国政府によって日本で購入した商品を中国に持ち込む際の関税が引き上げられた点も要因として大きい。
代表的な商品であれば、酒や化粧品などは50%から60%に、食品は10%から15%にそれぞれ引き上げられた。
しかし、爆買いが完全に収まったわけではない。2016年には減少したとされる中国人旅行者1人あたりの消費額も、人民元換算すれば5%も減っていない。現に2018年においても、3月までの観光客全体の合計消費額のうち、4割近くは中国人によるものだ。
4. 日本側の爆買いへのサービスや対応
受け入れ側である日本においては、観光バスの路上駐車など爆買いをめぐる社会問題も少なくない。人気の紙おむつなど商品によっては、購入制限を設けるなど保守的なメーカーや店舗もある。
しかし、サービスや対応を強化し、積極的な受け入れ姿勢を見せる店舗も現れた。
たとえばマツモトキヨシでは、各店舗に中国語対応スタッフを配置したり、銀聯カードなど中国人客特有の支払い手段に対応したりしている。中国語の公式ページも作成し、中国の大手ECサイトにも出店するなど、ネット上でも中国人との接点を増やしている。
通販路線であれば、三越伊勢丹や松屋銀座も負けていない。三越伊勢丹は、中国アリババの運営する大手越境ECプラットフォームである天猫国際での商品展開を始めた。松屋銀座は独自の越境ECサイトを立ち上げ、認知度の向上に取り組んでいる。
5. 結局爆買いはいつまで続くのか?
現代では爆買いブーム時とは異なり、実際に訪日する中国人客はリピーター層が目立つ。単に品物を購入する「モノ消費」よりも、体験やサービスに対価を払う「コト消費」へ消費傾向が変わりつつあることも、目に見える爆買いが収まった要因だ。
爆買いの舞台も実店舗だけでなくECサイトを利用したネット上にまで広がっているため、典型的な爆買いだけで言えば、いずれ見られなくなることも予想されている。
また、インバウンド層自体は増えており、2020年の東京オリンピックや2025年の大阪万博など大イベントもある。爆買いそのものが多様化しつつあるが、経済効果はしばらくは期待できるだろう。
6. 爆買いの余波は続いている
2015年がピークとなった爆買いは、一時は全国の百貨店売上高の4分の1ほどの経済効果をもたらすほどの規模となっていた。円安や日本製品への安心感から、日本で商品を購入したほうが得だという認識が広まっていたのだ。
現代でもECサイトへの出品など、中国人客を取り込む工夫が続けられている。