フリーミアムは、アメリカのベンチャー投資家、フレッド・ウィルソンが2006年に提唱したことから広まった。
2009年に発刊された、「フリー(無料)からお金を生みだす新戦略」(クリス・アンダーソン著)が人気の火付け役となり、2010年頃から日本国内でも一気に広まったのである。
何故マネタイズ戦略において、フリーミアムは人気を博しているのだろうか?
フリーミアムの事例からその特徴を、実際の事例を交えながら考察していこう。
今後のマネタイズに役立つだろう。
成功するためのポイント、失敗する理由を検証したところ、無料から有料へ設定する境目が重要であるといった法則性があるようだ。
1. 機能や容量の増大
2. 広告制限の解放により、表示スピードを速める
3. 利用料金がお得になるプランの増大
4. 限定コンテンツの解放
フリーミアムの事例を踏まえて、ポイントについて解説していくことにする。
目次
1. フリーミアムとは
基本的なサービスをFree(無料)で提供し、より高品質なサービスを一部有料販売することで、収益を得ることをフリーミアムと言う。フリー(Free)とプレミアム(Premium)をかけ合わせた造語である。
マネタイズ戦略において、フリーミアムが人気を博している理由は、WEB上において、無料にするためのコストがかからないからである。
例えば、健康食品を販売する時、お試しサンプルを顧客に無料提供することで、サンプルのコストが発生する。
できれば、無料提供するサンプルのコストを安く抑えつつ、有料で購入する顧客を大勢獲得しなければ収益につなげることはできない。
一方でデジタル化が進んだことで、データを簡単に複製することができるようになった。
つまりWEB上の場合、大量に人に無料サービスを提供しても、経費は低コストで実現できるため、わずかな有料顧客を確保さえすれば、収益化できる仕組みになっているのである。
2. フリーミアムの成功事例
フリーミアムを成功させるためには、無料と有料の差別化を図ることが大切である。
「有料サービスを購入したい!」と顧客に思わせる4つのフリーミアムの成功事例を以下に示す。
1. 機能や容量が増えて便利
2. 広告制限の解放によって、表示スピードが速まる
3. 利用料金がお得になるプランの増大
4. 限定コンテンツの解放
無料と有料の線引きを見極めるのは、とても難しいが、上記の4つのポイントを抑えて、フリーミアムを成功させた企業事例を紹介していこう。
2-1. 機能や容量の増大
これを実現させたのは、COOKPADである。
一般投稿者のレシピを誰でも無料で見ることができる。
ただし、検索機能に制限がかけられていて人気順にレシピを見ることはできない。
「制限を無くて、自由に使いやすくしたい」と思う顧客の心理を利用して、有料会員の設定をしている。
有料会員になると
・レシピ検索の絞り込みが可能になり、人気順に見ることができる
・管理栄養士監修の献立例が見れる
・料理研究家のレシピ閲覧ができる
・クックパッド以外で利用できるサービスクーポンの取得
初月無料のトライアル期間中を設けて、実際に有料会員になってもらい使い心地を試してもらうことで、顧客に「有料サービスを使いたい」と思わせる戦略にもなるのだ。
最高のメモアプリとしてテキストだけでなく、ボイスメモや写真なども追加出来るノートを提供する「Evernote」。個人の情報整理だけに留まらず、他社やチームへの共有としても利用されている。
個人では無料枠でも十分だが、チームで利用する場合に便利な機能を有料機能に盛り込むことで、有料サービスの利用を増やす戦略が光っているのだ。
有料会員になると
・ノートのバージョン履歴機能が利用できる
・権限毎のアクセス制限ができる
個人でまずは利用してもらい、使いやすさを実感した上で、会社のメンバー内での共有用として利用してもらうといった流れがイメージできる戦略といえるだろう。
オンラインストレージを提供するDropboxもご紹介していこう。
元々dropboxは、検索型のマーケティングによる有料版ユーザの集客を試みていたが、「オンラインストレージ」という言葉にまだ馴染みが薄く、思うように有料版を利用するユーザを集客出来ていなかった。そして、ここでいうマーケティングコストとは無料ユーザのサービス利用にかかるコストだと気づいたのである。そこで、検索型マーケティングを廃止し、急速な成長をとげることができたのだ。
失敗を乗り越えたdropbox。無料プランでは2GBの容量まで利用することが出来る。オンラインのストレージなので、色々な端末からアクセスできるというメリットがある。
より大きな容量で利用したいという顧客を有料会員になってもらうような流れだが、2019年3月より新たに3台までの端末台数の制限が追加された。
制限なく利用したい顧客が有料会員に切り替えるのか、他のサービスに移ってしまうのか、今後の動きが注目されている。
有料会員になると
・プランに応じた容量までアップできる
・プランにより閲覧者の管理も可能になる
また、Dropboxで注目すべきは、新たにユーザーを招待すれば自分の容量の無料枠が増えるというところにある。新たなユーザーが増えることで、有料会員になる可能性も上がることから、お互いにメリットがある仕組みなのだ。
dropbox アカウントにリンクできるデバイス数に制限はありますか?
GIGAOM Case Studies in Freemium: Pandora, Dropbox, Evernote, Automattic and MailChimp
2-2. 広告制限の解放により、表示スピードを速める
これを実現させたのは、ニコニコ動画である。
アカウント登録をすることで、無料で誰でも動画を視聴できる。
ただし、視聴人数が増えて混雑すれば画質が悪くなったり、読み込み速度が落ちたりなどの制限がある。
また、人気動画は視聴に人数制限をつけていることがあり、無料会員が視聴中に有料会員が後から視聴し始めると、無料会員が追い出されることがあるのだ。
「いつでもどこでもサクサク見られて、視聴にストレスを感じたくない」と思う顧客の心理を利用して、有料会員の設定をしている。
有料会員になると
・専用回線でいつでも高画質、回線速度が速い状態で動画を見ることができる
・人気動画の入場制限がなくなる
視聴することに制限を設けていることで、顧客に「制限のストレスを速く解放したい」と思わせる仕組みを上手に作り上げている。
2-3. 利用料金がお得になるプランの増大
これを実現させたのは、食べログである。
どんな飲食店があるかを誰でも無料で探すことができる。
検索先の飲食店の評判を口コミで確認することもできる。
ただし、無料会員はランキング検索をすることはできまない。
「料金がお得になって欲しい」「人気のお店を知りたい」と思う顧客の心理を利用して、有料会員の設定をしている。
有料会員になると
・ランキング検索が可能になる
・他のクーポンより5%以上お得になるクーポンが発行できる
外食する機会が増えてくると、ランキング上位の口コミで最も評判の高い飲食店もチェックしたいと思うものである。
食べログは初月無料で有料会員限定サービスも受けることができるため、機能の使い心地を気軽に知ることができるのは、顧客にとって大きなメリットとなるのだ。
また有料会員限定割引クーポンなどを発行して「継続して使い続けたい!」と思わせるような心理を上手に取り入れている。
2-4. 限定コンテンツの解放
これを実現させたのは、写真ACとradiko.jpです。
写真AC HP
アカウント登録することで、誰でも無料でフリー素材をダウンロードすることができる。
ただし、ダウンロード数の制限が1日当たりに設定されていたり、サイズの制限もされることもある。
「利用コンテンツが広がって欲しい」
と思う顧客の心理を利用して、有料会員の設定をしている。
有料会員になると
・全ての制限が解放され、ダウンロードし放題になる
・有料会員限定素材も配信される
利用頻度が増すうちに、一日あたりのダウンロード数に制限をかけたり、サイズ制限を設置して、顧客に「わずらわしさ」を感じさせやすくする仕組みを作っている。
合わせて、有料会員になることで、「購入特典」のプレゼント告知や値上げ告知をし、「今すぐ参加しないと損する」心理を上手に取り入れている。
今いる場所で放送されているラジオを視聴することができる。
聞き逃したラジオも1週間以内であれば、さかのぼって視聴可能である。
ただし、今いる場所以外で放送されているラジオを聴くためには、有料会員になる必要がある。
有料会員になると
・全国各地のラジオ放送を聴くことができる
自分の好きな芸能人が配信するラジオ視聴をしたい時や、自分がいるエリアでは放送されていないスポーツ中継を聴きたい時など、「放送エリアの制限を無くしたい」と顧客に感じさせるような心理をつくために、視聴制限を上手に取り入れているのだ。
フリーミアムの成功事例に反して、無料と有料の差別化に失敗し、フリーミアムが上手くマネタイズ化できなかった事例もある。
マネタイズ成功事例から学ぶ4つの教訓とは
詳しくは「2-3.フリーミアム失敗事例から学ぶ教訓もある」を参照ください。
3. フリーミアムの問題点
フリーミアムの問題点として以下のことが考えられます。
・無料で利用できるコンテンツが多かったり、制限が少ないと失敗しやすい
・無料で提供していたサービスを有料化すると失敗しやすい
・いくら無料でも、需要が少ないコンテンツは見込客の獲得にはつながらない
・収益を黒字化させるまでには、コストと時間がかかる
フリーミアムを成功させるためには、「有料と無料の差別化が大事」と上記した。
当然ながら、無料で利用できるコンテンツが多かったり、制限が少なければ、顧客は無料で満足してしまうのだ。
そうなると、収益化には繋がらなくなるわけである。
また、無料で提供していたサービスの一部を有料化するのは、今まで使えていた機能が使えなくなり、不便に感じる為、戦略としてはあまりオススメできない。仕方なく有料サービスを利用することになるので、サービス全体にマイナスのイメージを持ってしまう可能性があるからだ。
そして、無料コンテンツ自体が需要の無いものだと、「有料購入してまで利用する価値はない」と顧客に思われれば、収益化できないだけではなく、コンテンツの利用者数も減ることになる。
価値があるコンテンツを無料で利用できると、見込客に最初に感じてもらうことで、今後の収益化につながる。
またフリーミアムが収益化する流れとして、無料コンテンツの価値が認められば、有料会員の獲得ができる。
よって、収益化するまで最初は無料の期間がある分、タイムラグが発生する。
収益が黒字になるまでに時間とコストの計算が重要になるのだ。
3-1. 失敗事例:New York Times Online
New York Timesのオンライン記事は失敗から成功へ見事に転換を遂げたといえる。
無料枠として、当初20記事まで閲覧無料としていた。しかし、有料会員の増加が伸び悩んだ為、10記事に変更している。
現在では、電子版の有料会員が約342万人にまで達しており、失敗から一転、成功をおさめている。収益化できる境目を、再度見極め直したことが成功の要因といえるだろう。
4. フリーミアムの将来性
価値のあるコンテンツを無料で広めることで、人々に注目してもらい、有料コンテンツへと誘導するフリーミアムは、WEB上だけにとどまらず、今後あらゆる業界で注目されることだろう。
フリーミアムの新しい取り組みとして、実施されている事例を紹介しよう。
・無料のコインランドリー
・学生は無料のカフェ
4-1. 無料のコインランドリー
無料のコインランドリーを地域のスーパーやドラッグストアに設置して、広告収入で採算を図ろうとしているのが、WASHハウスというベンチャー企業である。
WEB上におけるフリーミアムにとどまらず、施設自体の無料化を実現しようとさせる新しいフリーミアムの事例ではないだろうか。
4-2. 学生は無料のカフェ
大学生であれば、無料でカフェの飲み物が飲める「知るカフェ」が全国各地にチェーン展開している。
「知るカフェ」の面白い所は、顧客として来店する学生からは、料金を徴収しない。
実は、「知るカフェ」とスポンサー契約を結んだ企業が、広告料を支払うことで収益化に結び付けている。
実はこの「知るカフェ」、就職活動のために企業情報を知りたい学生と優秀な人材を確保したい企業を結びつける場となっているのである。
企業が「知るカフェ」を利用して、店内でイベント開催や自社のパンフレットを設置して、宣伝活用をしているのだ。
学生も、情報収集することができるため、お互いのニーズを上手く取り入れた三者間市場型フリーミアムの事例なのである。
5. フリーミアムの事例から学ぶ今後の課題
成功するためのポイント、失敗する理由を検証したところ、無料から有料へ設定する境目が重要であるといった法則性について解説してきた。
1. 機能や容量の増大
2. 広告制限の解放により、表示スピードを速める
3. 利用料金がお得になるプランの増大
4. 限定コンテンツの解放
マネタイズ戦略において、フリーミアムが人気を博している理由は、無料で多くの顧客にコンテンツを使ってもらえるため、機能やサービスの良さを宣伝しやすく、有料顧客を見込めれば、収益化も同時に図れることだろう。
フリーミアムで黒字を出すためには、「無料と有料の差別化」を設定して、いかに有料顧客の見込客を増やすかが鍵となる。
その鍵は、「無料にはある程度の制限をかける」ことだ。
もう一度、「フリーミアムの成功事例」を振り返って、自社でもマネできるかどうか戦略を練ってみてほしい。