Optoroは、次なるユニコーン企業(時価総額が10億ドルを超える非上場の企業)ともいわれ注目を集めている企業だ。
2010年創業の同社は、米国における返品商品の物流と販売に新たな価値を見出すことで成功している。
その背景にある課題とビジネスモデル成功の秘訣について紹介する。
目次
1. 米国における返品と廃棄の現状
ITが発達して以来、さまざまなカテゴリーの商品を扱う大手ECサイトの利用が一般的になった。
どんなものでもインターネットを通して簡単に購入できるようになった反面、商品の返品率は上昇傾向にあるという。
米国には、消費者がECサイトで購入する商品のうちの10〜15%が実際に返品されているという現状がある。
これは、金額にすると1年で5000億ドルにものぼる規模だ。
さらに、悪いことに返品される商品の多くは埋め立てにまわされる形で廃棄処分になっている。
その理由の一つに、非効率的な物流の問題がある。
本来ならまだ使えるはずの商品が大量のゴミとなり、環境に大きな負荷を与えているのだ。
今後、ますます増えていく可能性のある返品商品をどう扱うかは、すべての小売業者が考えなければならない課題となっている。
小売業での返品と環境の問題を解決するために、物流の革新が求められている。
すでに米国では、物流大手を中心に方法が模索されている段階にあり、その中でも注目されているのがOptoroのサービスだ。
同社が提唱する「リバースロジスティクス」は、これまで段階が多く時間がかかっていた返品の物流過程をよりシンプルなものに変えた。
1-1 小売業者が返品に悩まされる理由
返品商品は、小売業者にとっては頭痛の種だ。
なぜなら、返品されて手元に戻ってきた商品の在庫は、今後の利益がほとんど期待できないばかりか、廃棄処分するのにもコストがかかるためだ。
1-2 返品商品の再販は利益が出ない
再販商品は格安で販売される中古品であるにも関わらず、店頭に並ぶまでにかかるマージンが大きいため、利益は非常に少ない。
返品された商品は、通常は流通の過程を逆戻りして倉庫に保管される。
再販が可能かどうかを判断するためには、商品の梱包を素早く丁寧に解いて商品状態をチェックしなければならない。
大手の小売業者では返品商品も大量にあり、中には修理が必要なものもあるだろう。
このような作業を倉庫作業者の手作業で行うというのは、想像しただけでも過酷な作業だ。
商品状態から再販可能と判断された商品は再び出荷され、卸売業者など何段階もの流通過程を経て中古販売店やアウトレット店にたどり着く。
実際に再販されるまでには、最初に返品されてから何カ月も過ぎている場合もある。
1-3返品商品にはコストがかかる
倉庫でのチェックで再販できないと判断された商品は、処分されることになる。
たとえ、状態が良好でも食料品などのように消費期限のあるものや、季節商品などは、時間のかかる流通のプロセスに耐えられないため廃棄処分するしかないことも多い。
もはや、利益が出ないどころか、倉庫に保管したままでも処分してもコストにしかならないのだ。
大規模な倉庫を持つ小売店では、コストもその分だけ高くなる。
2. 返品商品に価値を与えるOptoroのサービス
Optoroは、小売業者が抱える返品の在庫を自社のECサイトで再販する形で活用する。
独自のテクノロジーを用いた最適化により、これまでコストばかりが大きかった返品商品から利益をあげられるサービスだ。
Optoroの顧客は、返品商品を販売用の在庫として提供してくれる小売業者と、ECサイトの利用者の2通りということになる。
2-1 小売の再販コストを削減
小売業者にとってのOptoroのサービスは、再販における物流の長い逆戻り(リバース)のプロセスを、よりシンプルに変えるものだ。
自社倉庫とECサイトの両方を保有することで、在庫の保管から販売までをワンストップで提供する形になっている。
また、小売業者から預かった返品商品を最も価値の高いチャネルにルーティングすることで、これまではほとんどなかった再販による利益を確保する。
すべての商品を徹底的に最適化された独自のシステムで管理しており、売り上げの状況などはリアルタイムで確認できる仕組だ。
小売業者側には、売り上げに応じてマージンが支払われる。
2-2 購入者には価格メリットを提供
OptoroのECサイトには、BtoC向けの「BLINQ」とBtoB向けの「BULQ」の2種類がある。
特にBLINQでの販売価格は、定価より7割程度も値引きされることがあり、消費者にとってメリットが大きい。
それでも利益が確保されており、返品商品の在庫処分に困っている小売業者にとっては、これまでの方法で再販するよりもOptoroに任せたほうがリターンとしては大きいという構図だ。
なお、「どの商品をどちらのサイトで販売すべきか」は、Optoroの独自システムが判断する。
2-3 サステナブルな社会づくりにも貢献
Optoroは、持続可能(サステナブル)な社会づくりへの貢献もうたっている。
廃棄処分を極力行わないようにすることで環境への負荷を減らすために、Optoroが考える在庫のルーティング先は再販と廃棄のみではない。
商品の状態により再販に不適と判断された商品は、可能な限りリサイクルや寄付にまわされている。
3. Optoroのビジネスモデル
Optoroは、テクノロジーを武器とするベンチャー企業であり、自社の物流ネットワークを持っているわけではない。
そのため、ロジスティクス大手のUPSと提携することによりサービスを展開する形をとっている。(UPSはOptoroの株主になっている)
サービスの核となっているのは、「Optitune」と呼ばれるITシステム基盤だ。
3-3 再販による利益を最大化する仕組み
自社倉庫に集められた商品は、すべて専用のスキャナー装置でOptituneに登録される。
商品へのタッチを必要最小限にするとともに、各商品をどのように活用すべきかをOptituneが素早く的確に判断し、最も価値の高いチャネルに在庫をルーティングする。
商品の行き先はいくつもあるが、主要なルートはOptoro自身のECサイトであるBLINQとBULQだ。
これにより、在庫管理と流通のコストを抑えながら、これまで利益を出すことが難しかった再販ビジネスを現実的なものにしている。
ただし、Optituneの判断によってはAmazonやeBayなどの大手マーケットプレイスに出品されることもあるという。
なお、商品の状態によっては修理業者に依頼して整備してから販売することもあるが、修理業者とは提携関係にあり、こちらも独自のネットワークにより最適化されている。
3-4 再販できない商品にも価値を与える仕組み
OptituneによりBLINQやBULQでの販売が難しいと判断された商品は、可能な限りリサイクルや寄付にまわされる。
もちろん、これらの商品は利益にはつながらない。
しかし、Optoroのサービスを利用する小売業者にとっては、もとは保管するにも処分するにもコストがかかっていた在庫だ。
そのような在庫を手放すことができるばかりか、環境への貢献によって自社ブランドのイメージが向上する可能性もある。
4. Optoroのビジネスモデル成功の秘訣
商品の新しい行き先のことを、Optoroでは「next best home(次の最適な家)」と呼んでいる。
「返品された商品を決して無駄に扱わない」という意気込みがよく表された言葉だ。
これこそが、同社の成功の秘訣といえるかもしれない。
4-1 AIのテクノロジーを活用
商品を無駄にしないためには、的確な判断能力が不可欠だ。
Optituneの革新性は、在庫のルーティングを自動的に決定する部分にある。
この機能は、AIを用いた「SmartDisposition(スマートな処分)」テクノロジーによって実現されている。
大量の商品情報をあらかじめ機械学習させておくことにより、一つ一つの商品を再販にまわすべきかどうかなどの判断を、素早く的確に行えるようにしたのだ。
4-2 根底にあるのはWin–Winの精神
創業者であり現在の社長を務めるAdam Vitarello氏は、「Optoroのビジネスの本質はWin–Winの関係性にある」と語る。
小売においては、再販しても利益にならず、倉庫で抱えていてもコストになるばかりの商品に新たな価値を与えた。
消費者にとっては、欲しいものを低価格で手に入れられるチャンスになる。
たとえ、売れない商品でもリサイクルや寄付で役割を与え、廃棄処分を減らすことで環境にも貢献している。
Optoroが成功させたビジネスモデルの根底には、「すべての関係者にメリットを与えたい」という姿勢があるといえるだろう。
5. Optoroが再定義した返品商品ビジネスは今後も注目のジャンル
Optoroは、AIのテクノロジーを活用して返品商品に新しい価値をもたらすことに成功した。
サステナブルな社会づくりにも貢献できる現代のトレンドに合ったビジネスモデルだ。
その根底にはWin–Winの精神がある。日本でも今後同様のビジネスが求められる可能性があり、注目すべきジャンルの一つだろう。