若者を中心に大人気となったアニメ「ポプテピピック」は、2018年を代表するメディアコンテンツの一つとなった。
ヒットの要因は単に内容の面白さだけではない。
この記事では、5つのポイントから、「ポプテピピック」の画期性を解説していく。
目次
ポイント1.視聴者を釘付けにした「何が起こるかわからないスリル」
1-1 原作をなぞるだけではない展開に驚愕
「ポプテピピック」の原作は、「まんがライフWIN」で連載されていた4コマ作品である。
連載開始当初から、ブラックなテイストの笑いはコミックファンから高く評価されてきた。
しかし、アニメ版の大ヒットは原作をただなぞるだけでなく、極限にまでスリリングな展開を打ち出した点にあるだろう。
1-2 パートごと変わる声優陣のワクワク感
具体的には、「ポプテピピック」は毎回、主人公2人の声優が変わる。
いや、毎回どころか、同じ回のAパートとBパートでポプ子とピピ美の声が変わってしまうのだ。
放映開始前は、2人ともイメージにあった若い女性声優が担当するとアナウンスされていた。
しかし、第1話に起用されたのはベテランの男性声優である。
しかも、BパートはAパートの「再放送」と称されており、声優の演技以外は同一の内容がオンエアされた。
つまり、1話につき、4人の声優がポプ子とピピ美を担当していることになる。
1-3 視聴者の予想を裏切る仕掛けの数々
当初は、戸惑った視聴者も回数が進むにつれて豪華なキャスティングを楽しむようになった。
また、声優以外の部分でも同様の仕掛けがなされている。
主題歌や原作者の肩書きなど、「ポプテピピック」は毎回、視聴者の予想を裏切ってくる。
「ポプテピピック」は、よく「パロディアニメ」と評される。
しかし、本当にパロディの対象となっているのは、スタイルが定番化したテレビアニメそのものだ。
そして、視聴者はテレビアニメの常識が解体されていく姿にこそ、興奮を覚えていたのである。
ポイント2.製作委員会ではなく単独出資によって守られた創造性
「ポプテピピック」の破天荒な内容を可能にしたのは、「単独出資」という製作形態だろう。
日本の映像コンテンツでは、「製作委員会」という形態を採用することが一般的となっている。
例外こそあるものの、テレビアニメやメジャー系映画などは制作会社とスポンサーが「製作委員会」を作り、製作費を共同出資するやり方が浸透していた。
これは、アニメや映画を量産するために、製作費をスムーズに捻出するための手段だったといえる。
2-1 製作委員会形式が招いた功罪とは
特にゼロ年代以降、深夜アニメの本数が急増してからは大半の作品に製作委員会のクレジットがなされてきた。
ただし、製作委員会方式には弱点もある。
出資者が多くなりすぎて、最終的な責任の所在があいまいになってしまうのだ。
そのため、おのずと挑戦的で刺激の多い作風は敬遠されていく。
原作のあるアニメが大胆な脚色を行いにくくなっていったのも、製作委員会方式は原因の一端を担いでいたといえる。
2-2 責任の所在がはっきりした結果
「ポプテピピック」はアニメ化の際、あえてキングレコードの単独出資で製作された。
そのことで、「何かあったらキングレコードが責任をとる」という共通認識が現場と製作陣の間で生まれ、制約がとりはらわれたのだ。
「ポプテピプック」には、かなり際どい風刺もあるし、節操のないパロディも頻出する。
そして、それこそが「ポプテピピック」の大きな魅力である。
本作の創造性は、単独出資という英断によって守られたのだ。
ポイント3.どんなコンテンツともコラボレーション可能
出典:ポプテピピック
3-1 コラボレーションで需要を拡大
「ポプテピピック」は、視聴者以外からの知名度が高いアニメだ。
これだけさまざまな媒体とコラボレーションしていれば、当然だろう。
そして、これだけコラボレーションが増えたことにも理由があった。
3-2 かわいいだけではないキャラクター戦略
内容の過激さとは裏腹に、「ポプテピピック」のキャラクターデザインは非常に愛らしい。
ポプ子もピピ美も十分、キャラクター産業の主役となるだけの魅力を備えていたのは確かだ。
しかし、単にかわいいだけではヒットしないのがキャラクター産業の難しさである。
事実、作品そのものは大ヒットしているにもかかわらず、キャラクターグッズをあまり見かけないアニメは少なくない。
作品そのものの印象が強すぎると、ほかのコンテンツとのコラボレーションが制限されてしまって展開が広がらないのである。
その点、最初からパロディ路線を突っ走った「ポプテピピック」は、あらゆるジャンルとの組み合わせが容易に実現できる作品となった。
3-3 競馬やカフェなどでもコラボレーションが実現
たとえば、日本中央競馬会(JRA)とのコラボで生まれたWebコンテンツ「ポプテピ観客メーカー」は大ヒットした。
観客数が100万人を突破した記念として、2018年6月にはWebアニメ「ポプテピ記念」が公開されている。女子高生2人が大暴れするアニメと競馬という異色のコラボが、何の違和感もなく世に出ているのは注目に値する現象だろう。
また、「ポプテピピック」は2019年2月9日から4月14日までの期間限定でサンリオ in 西武池袋本店とのコラボを行った。
ポプテピピックとサンリオキャラクターのコラボカフェは、大反響を呼んでいる。
「ポプテピピック」は、パロディを詰め込むことで物語を空洞化し、あらゆる媒体と結びつくことを可能にしたのだ。
ポイント4.クリエイターが関わって楽しい現場を生み出す
「ポプテププック」は、作り手が心から楽しんでいるようすが伝わってくる作品だ。
これほどまでに、作り手のテンションを意識しながら見られるアニメはまれである。
4-1 才能を発揮できる環境を整える
日本のアニメ現場は「やりがい搾取」と形容されがちだ。
一時期よりクリエイターたちの労働条件は改善されつつある。
それでも、「ブラック企業」の条件にあてはまるような現場はまだまだ多い。
そして、こうした劣悪な労働環境は作品にも反映される。アニメ業界において、作り手が心から「関わってよかった」と思えるような現場は稀少だ。
だからこそ、クリエイターの才能を思う存分発揮できるような舞台が整ったとき、作品には爆発的なパワーが宿ることもある。「ポプテピピック」の制作体制は好例だろう。
4-2 チャレンジが好意的に受け入れられた
「ポプテピピック」では、制作スタジオである「神風動画」が作風について大きな決定権を持っていた。
この状況も、数多くのスポンサーを説き伏せなければいけない製作委員会では難しかっただろう。
そして、クリエイター目線による、実験的な手法を後押しする環境が確保されたのである。
その結果、「ポプテピピック」ではアニメーターはもちろん、3Dアーティストやミュージシャンたちが自由な創作を楽しんでいる。
奔放な作風を敬遠してしまう視聴者もいただろう。
しかし、大半の視聴者にはクリエイターたちのチャレンジ精神が好意的に受け入れられた。
これまでのコンテンツ産業では見られなかった強烈な個性が、アニメファン以外からも支持を集めたのだ。
ポイント5.口コミと2次創作を大量に生み出す「語りたくなる感じ」
ネットで「ポプテピピック アニメ」と検索してみると、大量のニュースがいまだにヒットする。そして、動画サイトなどに投稿されている「MAD」と呼ばれるような2次創作も簡単に見つかるだろう。
5-1 現代人のライフスタイルにはまる
「ポプテピピック」は、細かいネタを積み重ねて15分のパートを構成している作品である。
そのため、ネットの職人たちにとっては「好きなギャグ集」「名言集」といった動画を作ってみたくなるコンテンツなのだ。
また、膨大な量のパロディも、ネタ元が気になるところである。
動画サイトやブログでは、「ポプテピピック」のパロディ元の考察が頻繁になされており、反響を得ている。
「ポプテピピック」はWeb2.0の世代のライフスタイルにぴたりとはまった作品だった。
5-2 2次創作からファンになった人も
そして、2次創作の数々は「ポプテピピック」本体に対しても、プラスに働いている。
放送時に「ポプテピピック」を知らなかった人も、ネットの熱狂的な口コミに触れてから後追いを始めたケースは少なくないだろう。
この「語りたくなる感じ」は、「ポプテピピック」のファン同士で強い連帯感を形成する。
そして、ファン達の連帯感を目撃したネットユーザーは「自分もその空間に加わりたい」との思いから、作品を鑑賞し始める。
この連鎖反応が繰り返され、作品はますます知名度を高めていったのだ。
6. 戦略と創造性の勝利!アニメ「ポプテピピック」はコンテンツ産業の未来を映す
ゲームやアニメ、マンガなどのコンテンツ産業は、日本が世界に誇るジャンルである。
しかし、大量生産が続くことで突出した作品が生まれにくくなっていたのも事実だ。
アニメ「ポプテピピック」は、常識を打ち破ることで視聴者から絶大な支持を得た。
そのビジネスモデルは、あらゆる社会人にとって参考になるだろう。