アストロスケールは世界初のスペースデブリ観測衛星の打ち上げを計画しているベンチャー企業だ。今後の宇宙開発に大きな影響を与える「スペースデブリ問題」の解決に取り組む企業として、多くのファンドや投資家が注目している。ここではアストロスケールのビジネスモデルや実績、今後のミッションなどを解説する。
目次
1.アストロスケールは宇宙の救世主?
出典:【2016 IDEA OSG 1】「IDEA OSG 1」プロジェクトとは
株式会社アストロスケールは2013年に岡田光信氏により創業された。本社はシンガポールに創設されたが、2015年から日本にR&D拠点を置き、2017年にはイギリスにも子会社を設立している。
アストロスケールは民間企業としては初めてスペースデブリ除去サービスの開発に取り組んでいるベンチャー企業だ。スペースデブリとは宇宙ゴミとも呼ばれ、運用が終わった人工衛星やロケットなど、地球の軌道上に放置された人工物や、それらが衝突することにより発生する破片を指す。
地球周辺の宇宙空間には、地上から追跡できるだけでも10cmを超える大きさのスペースデブリが約2万個、1mm以上のものは1億個以上存在し、急速に増加を続けている。
スペースデブリは秒速7~8kmほどのスピードで地球の軌道上を周回している。1cm程度の小さな破片スペースデブリであっても、人工衛星やロケットに衝突すれば、故障や破損などの深刻な問題を引き起こしかねない。
2015年には気象衛星の破片が国際宇宙ステーションに接近し、衝突未遂事件に発展した。万が一、スペースデブリによって人工衛星がダメージを受ければ、放送や通信の分野はもちろん、GPSや気象予測、航空機の運航など、あらゆる分野に影響が現れるだろう。
スペースデブリは地球上の暮らしを脅かす脅威となっているのだ。
1-1.各国のスペースデブリ除去へ取り組み
持続的な宇宙開発のためにも、スペースデブリの除去や増加抑制の必要がある。欧州や米国の宇宙機関では、スペースデブリを低減するためのガイドラインが設けられており、国際的に注目を集めている課題だ。かつては民間企業どころか、宇宙開発の専門家しかデブリの危険性に注目していなかった。
デブリを除去するにも、法整備も技術も整っておらず、事業として運営できる市場もサプライチェーンもない。宇宙は公共財であり、宇宙で起きた問題は公的機関が解決するべきと考えられていたのも、デブリの問題が世の中に認知されなかった原因の1つだ。
しかし、実際には率先して解決に乗り出す国家も公的機関も現れない。そこで、宇宙の救世主といわれる壮大なミッションに着手したのが、アストロスケールだ。
アストロスケールはスペースデブリ除去の事業化を目指して、デブリの観測や除去を行う人工衛星の開発を進めている。
参考URL:【2016 IDEA OSG 1】「IDEA OSG 1」プロジェクトとは
2.企業名に込められたメッセージとは
アストロスケールという企業名は、宇宙を意味する「アストロ」と、天秤を意味する「スケール」に由来する。
アストロの語源はギリシア語で星を意味するasterであり、そこから転じて星や宇宙を意味するastroという単語が生まれた。スケールとはいわゆる天秤ばかりを指し、正義の象徴として扱われる。
アストロスケールは次世代まで宇宙開発に取り組める環境を作り、社会貢献を目指す会社である。その社名には、「宇宙規模で正義と秩序を背負う会社」というメッセージが込められているのだ。
3.未来を見据える宇宙開発プロジェクト
アストロスケールは20~30代の若手から、長年宇宙開発事業に携わっていたベテランまで、幅広い世代が活躍する企業である。2015年に設立された日本法人の代表を務めているのは、衛星製造のスぺシャリストとして宇宙開発の第一線で活躍してきた伊藤美樹氏だ。
伊藤氏は2011年に日本大学大学院航空宇宙工学修士課程を修了した後、次世代宇宙システム技術研究組合にて超小型衛星「ほどよし」の開発プロジェクトに携わっている。ほどよし3号機、4号機の開発に従事した後は、エンジニアとしての経験を活かし、衛星製造の指導や衛星開発のサポート業務を行っていた。
そして、アストロスケールの法人化にあたってCEOの岡田光信氏から打診を受けることとなり、伊藤氏は2015年4月にアストロスケール日本法人の立ち上げと同時に、代表取締役社長に就任した。
伊藤氏をはじめ、岡田氏からの声掛けにより集まったエンジニアを中心に、アストロスケールは20年、30年先の未来を見据えて宇宙開発を進めている。
4.投資獲得の実績は100億円超!
アストロスケールは2016年2月に、株式会社INCJから3000万米ドルの出資を受けている。さらに、INCJは2016年3月と2017年6月にも、アストロスケールへ1500万米ドルずつ投資を行った。INCJは産業革新機構から改組した官民ファンドだ。アストロスケールの技術力や、民間企業のみならず国際機関や国内外の行政機関まで巻き込んだ事業推進力を高く評価し、出資を行うに至った。
INCJはアストロスケールの技術開発や事業展開に必要な資金を提供するだけではなく、社外取締役を派遣するなど、経営面でのサポートも行っている。2018年10月には、INCJや三菱地所などの官民ファンド、民間ファンドから合わせて5000万米ドル、日本円にして56億円相当を調達した。先の数字と合わせると100億円を超える。
アストロスケールに投資を行うことで、スペースデブリに関する問題の解決に寄与するとともに、宇宙産業の発展や拡大にも貢献できる。また、アストロスケールも市場拡大に備え、米国への子会社設立や宇宙開発に関するガイドライン整備への参画を計画中だ。さらに、調達した資金はスペースデブリを回収する技術の開発、日本の研究開発拠点やイギリスの子会社における人員増加や施設の強化にも活用される。
5.アストロスケールを支えるオーエスジー株式会社
アストロスケールのプロジェクトを進めるうえで欠かせないのが、オーエスジー株式会社の存在である。オーエスジー株式会社は1938年に東京で創業した切削工具メーカーだ。創業時は大沢螺子研削所として、タップやダイスの製造販売を行っていた。1963年に社名をオーエスジー株式会社に変更し、本社も愛知県豊川市へと移る。
1968年、アメリカにOSG Tap and Die(現OSG USA)を設立したのを皮切りに、アジアやヨーロッパなど世界規模で事業を展開している。自動車や航空機をはじめ、ものづくりに関わる世界中の企業が主な顧客だ。
5-1.オーエスジー株式会社との出会い
アストロスケールとオーエスジー株式会社が共に宇宙事業へ携わるようになったきっかけは。2015年6月にパリで開催された航空ショーだ。オーエスジー常務取締役である大沢二朗氏は、ものづくりを通して世界中や豊かに暮らしていける社会に貢献することを目標としていた。
しかし、宇宙開発の妨げとなるスペースデブリは、地球環境にも影響を与えかねない。大沢氏はアストロスケールの広報ディレクターである山崎氏から、スペースデブリの問題とアストロスケールの活動を知った。大沢氏はアストロスケールが推進するプロジェクトに強く共感を示し、2017年7月にANAホールディンクスと共に約28億円もの投資を行っている。
さらに、オーエスジー株式会社が提供しているのは資金だけではない、アストロスケールとともに、人工衛星の開発にも携わっている。衛星製造の際に使われる工具やパーツの一部は、オーエスジー株式会社により加工・製造されたものだ。アストロスケールのプロジェクトを実現するうえで、オーエスジー株式会社の技術が大きく貢献していることも見逃してはならないポイントだ。
6.アストロスケールが掲げる今後のミッション
アストロスケールでは2013年の設立以降、スペースデブリを計測・除去する技術の開発を進めている。2017年11日には微小デブリを観測する世界初の人工衛星「IDEA OSG 1」を打ち上げた。「IDEA OSG 1」は、これまで観測できなかった微小なサイズのスペースデブリの位置や数、大きさなどを計測する人工衛星だ。ある程度の大きさがあるデブリとは違い、微小なデブリは除去できない。そのかわり、位置や数を把握すれば、衝突のリスクを下げることはできる。
アストロスケールは2030年にかけて、世界中の民間企業が続々と小型衛星を打ち上げる時代が訪れると予想している。しかし、衛星の数が増えるほど故障も発生しやすくなるだろう。そこで、使えなくなった衛星をすみやかに除去する技術が必要となる。アストロスケールは除去衛星の量産を目指し、技術開発に取り組んでいるのだ。2019年後半には、「IDEA OSG 1」が収集したデータをもとに、大きなサイズのデブリを除去する技術を搭載した衛星を開発する。2020年には世界初のデブリ除去衛星実証機「ELSA-d」を打ち上げる予定だ。