超小型モビリティとして2016年に発表された「rimOnO(リモノ)」。開発したのはベンチャー企業の株式会社rimOnOである。リモノは乗用車の4分の1ほどのサイズで、車のボディがウレタンと布で作られたかわいらしいデザインだ。人と車の新しい関係を感じさせるリモノの開発についてくわしく解説していく。
目次
1.「rimOnO(リモノ)」とはどんな車なのか?
出典:株式会社rimOnO
「rimOnO(リモノ)」は超小型モビリティと呼ばれる車のカテゴリーである。乗用車の4分の1ほどのサイズで、大人2人あるいは大人1人と子ども2人が乗車できる。
最高速度は時速45キロ程度と、加齢によって車の運転が不安になってきた人でも比較的安全に走行できるだろう。環境に配慮した電気自動車のため、排気ガスは出ない。街中を走らせるだけでなく、ショッピングモールや空港、テーマパークなどの移動に使えそうだ。
ボディのウレタン素材はクッション性にすぐれ、その周囲を布で覆っていることから、万が一人と衝突してもショックをおさえてくれる。
1-1.開発者について
リモノの開発を手がけた株式会社rimOnOは、2014年に設立されたベンチャー企業。元経済産業省のキャリア官僚であった伊藤慎介社長が、これまでになかった新しい乗り物を開発するというコンセプトの元に起業した。
リモノの試作車である「rimOnO Prototype 01」の発表が2016年、起業からわずか2年ほどで当初の構想を実現させている。
1-2.地方や高齢者に乗って欲しい
リモノにはどういった需要があるのかについても検証してみよう。
地方や郊外ではバスなどの公共交通機関が廃線となるなど、比較的短い距離を手軽に移動する手段がなくなっている。車のドライバーと、移動に車が必要な人をつなげるライドシェアサービスも、日本ではあまり普及していない。
そんな中で、駐車スペースをあまり取らず、小回りがきいて運転も簡単なリモノは、既存の移動手段の代わりとなるかもしれない。
高齢のために運転免許証の返納を考えている人や、運転には不慣れだが路線バスの廃止などのため、なんらかの移動手段を求めている人など、新たな需要が見込める可能性があるのだ。
2.作り手の思いが詰まっているリモノ
リモノとは、ローマ字表記の「乗り物(no-ri-mo-no)」から、「no」をなくすことで名付けられた。その意味するところは、高齢者が運転しにくいことや、細い道を走りにくいといった既存の車のイメージを乗り越えて、人と車の新しい関係を作っていくというものだ。
2-1.リモノの特徴
リモノは既存の乗用車の4分の1のサイズとなっており、田舎の細い道でもすいすい運転できるだろう。ボディに関しても既存の車のように固くて強いものではない。やわらかいウレタン素材を布製の外装パーツで覆っている。
布の部分は着せ替え可能で、縫い目をあえて見せるようなデザインにしてあるため、オモチャやぬいぐるみのようなかわいらしさが演出されている。
また、最高速度は時速45キロ程度とかなり遅い。しかし、速さやスタイリッシュなイメージを求めるスポーツカーなどとはニーズが異なるため、高齢者や運転に不慣れな人でも運転しやすい仕様といえる。このように、リモノのデザインには、既存の車に対する私たちの固定観念が大きく揺さぶるものがあるのだ。
2-2.思いやりに溢れたデザイン
リモノのデザインを担当したのは、同社の設立メンバーでもある根津孝太氏。
かつてトヨタ自動車の社員として、愛知万博の未来型パーソナルモビリティ「i-unit」を手がけた。その後、電動バイク「zecOO(ゼクウ)」を個人で開発するなど注目のデザイナーである。
根津氏の設計思想はリモノの随所に発揮されている。内部から外が見やすい大きな窓は、布を使ったボディとの調和が取れており、おもちゃのようなかわいいデザインだ。
利便性についても十分に考慮されている。
- バイクや自転車感覚で運転が可能となるバーハンドルを採用
- 車内シートは回転するため、乗り降りがとても簡単になっている
細部にまでこだわり抜いたリモノのデザインには、作り手である根津氏の思いが十分に感じられるだろう。
3.モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)時代にリモノの需要はあるか?
モビリティ分野のニュースなどで、「モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)」という言葉を聞いたことがないだろうか。
「マース」とも呼ばれるこの言葉は、これまでのマイカーを主とした移動手段に代わって、ライドシェアサービスや公共交通機関などの多様な移動手段を組み合わせることを意味する。
バスや電車、飛行機に加えて、レンタカーやライドシェアサービス、タクシーなどから、自分の目的や好みに合う移動手段を選んで利用するのだ。
マースが普及すると車を所有する必要がなくなる。スマートフォン片手に、目的地までのルート検索やライドシェアサービスの予約・決済が可能となり、マイカーがなくても移動が最適化されるからだ。
3-1.リモノ実現への課題
そんな中でリモノなどの超小型モビリティの役割としては、まずヨーロッパでは高齢者の移動手段として利用が進められている。
購入費用が乗用車より安く、運転も簡単、最高速度が制限されているため安全性も保たれるというのがその理由だ。
日本では超小型モビリティの法整備が十分に行われておらず、リモノも一般道を走行することができない。現在は国土交通省で実証実験が行われているが、法整備が進んで専用のカテゴリーが作られれば需要も喚起されるだろう。
3-2.将来期待される活用法
また、リモノをライドシェアサービスに利用することも可能だ。
鉄道の駅から郊外までを小型モビリティでつなげば、コストを比較的おさえながら付近住民の足となるだろう。
実際に、トヨタ自動車は、超小型モビリティを使ったシェアリングネットワーク「Ha:mo(ハーモ)」への取り組みを進めている。駅から仕事場や病院、買物する場所までの短距離移動に超小型モビリティを活用した実証実験を行っているのだ。
もうそこまで来ているマースの時代において、超小型モビリティのリモノが活躍できる場所は増えそうだ。
4.人と車の関係は本当に変わるのか?
リモノは「新しい乗り物」をコンセプトに開発されている。既存の車にないものを目指したのは、人と車の関係が変わる「MaaS(マース)」の時代を見据えてのものだ。
ヨーロッパなどではマースの普及が進み、そのなかで超小型モビリティの需要も生まれているが、日本におけるマイカー文化ははたして本当に変化するのだろうか。
4-1.車への関心低い若年層「所有から利用へ」
日本自動車工業会が発表している「2017年度乗用車市場動向調査」によると、若年層で車に関心がある人の割合は4割強に留まり、約3割の人がまったく関心がないと答えている。また、若年層で車を購入する意向があるのは5割弱に過ぎず、それ以外の人には購入意向がなかった。
車を購入しない理由としては、車がなくても生活できる、車以外のものにお金を使いたいといったものだ。これは社会人になったら自分の車がほしいという願望を持つ人の減少を意味している。
その一方で、レンタカーやカーシェアの利用意向は高く、レンタカーが7割強、カーシェアが5割強の人が利用したいと考えている。車を所有したいという人が減り、車は必要なときだけ利用できればよいと考える人が増えてきているのだ。
このような調査結果を見ると、車の所有を前提としないライフスタイルが現実味を増してくるだろう。車を利用する私たちの意識が変われば、人と車の関係にも変化が起こる。
そうなれば、「新しい乗り物」であるリモノの需要が高まっていくことは想像にかたくない。
5.リモノが実用化された先にある未来の展望とは
現行の法制度のもとでは、リモノのような超小型モビリティが一般道を走るための分類がされていないため、それぞれの自治体の許可が必要となる。
しかし、1つの自治体の許可を取得しても、その隣の自治体の許可が取れていない場合には、そちらの地域に乗り入れることができない。国土交通省によって「超小型モビリティ認定制度」が創設されて実証実験が行われているが、いまだに法整備が進んでいないというのが現実だ。
そういった苦境のなかでも、伊藤社長は超小型モビリティの普及が進んでいる欧州の規格を参考に設計の見直しを行うなど、これからも事業を継続していく考えだ。
6.まとめ
リモノが実用化されて一般道を自由に走行できるようになれば、移動手段が1つ増えることになる。高齢者や車の運転に不慣れな人などにとって、既存の車に代わる生活の足となりえるだろう。また、海外の動向などを見れば、ライドシェアサービスが今以上に普及していくのは明らかだ。そうなれば、リモノのような超小型モビリティが短距離移動の手段として強みを発揮していくことにもなるだろう。
「リモノ」に乗る未来には、人にも環境にも優しい社会になることを期待したいですね。