顧客との関係を築くことは、ビジネスにおいて欠かせない重要なポイントといえる。
そんななか、顧客との関係を構築する手法として、高い注目を集めているのが「カスタマーサクセス」だ。
特に、IT業界などで多く用いられている手法である。
カスタマーサクセスとは、一体どのようなものなのだろうか。ここでは、カスタマーサクセスの概要や主な役割、また成功のポイントについて解説する。
目次
1. そもそもカスタマーサクセスとは?
カスタマーサクセスはその名の通り、「顧客の成功」を意味するものだ。顧客という意味を持つ「Customer」と成功を意味する「Success」の頭文字をとり、「CS」と略されるケースもみられる。
主に継続課金型のビジネスで多く用いられ、顧客の業績を向上させたり、問題解決を支援したりする一連の活動を指す。
2. カスタマーサクセスの主な役割
カスタマーサクセスの役割は、主に顧客のニーズを拾い上げ、プロダクトを育てることだ。
主な役割には、以下の2つが挙げられる。
2-1 チャーンレートの引き下げ
「チャーンレートを引き下げる」のもカスタマーサクセスの大きな役割だ。
カスタマーチャーンとは、簡単にまとめると顧客の全体数に対する、解約率の指標のことを指す。
継続課金型ビジネスの場合、顧客の継続率の維持は重要な課題といえる。
チャーンレートを下げ、顧客の顧客の成功体験について計画立案を行うのだ。
また、収益に焦点を当てたレベニューチャーンについてモニタリングするのも、カスタマーサクセスの役割といえる。
2-2 ライフタイムバリューの最大化
「ライフタイムバリューの最大化」も役割の一つだ。ライフタイムバリューとは、顧客生涯価値のことを指す。
具体的にはアップセル・クロスセルを行い、顧客の価値を引き上げ、収益の最大化を狙うという役割を担っている。
3. カスタマーサクセスとカスタマーサポートはどう違う?
顧客に対する支援を行うものとして、カスタマーサクセスと似たものに「カスタマーサポート」が挙げられる。
カスタマーサクセスとカスタマーサポートには、どのような違いがあるのだろうか。
結論からいうと、両者は名前こそ似ているものの、「目的」や「指標」などに明確な違いがみられる。
3-1 目的の違い
カスタマーサクセスの主な目的は、顧客の「業績向上」や「目標達成」といった、成功体験の提供だ。
一方、カスタマーサポートは「クレーム処理」や「不満・問題の解決」が主な目的となる。
顧客の業績向上・目標達成は、問題を解決するためのサポートだけでは、成し遂げられるものではない。
より良い状態になるよう、状況に応じた提案を行う必要があるのだ。
具体的には、問題が発生した際、カスタマーサクセスは課題を先読みし、今後より良い環境にするためにはどうすべきか、対策を踏まえたサポートを行う。
このように、カスタマーサクセスは「能動的」であり、カスタマーサポートは「受動的」なサポートであるという違いがみられる。
顧客がまだ気付いていない問題やその解決策について考え、多角的にビジネスをサポートするのが、カスタマーサクセスなのだ。
3-2 指標の違い
また、指標の観点ではカスタマーサクセスは「売上・解約率」、カスタマーサポートは「対応件数・満足度」という違いがみられる。
カスタマーサクセスはいわゆる「攻め」のサポートであるのに対し、カスタマーサポートは「守り」の支援体制といえるだろう。
4. カスタマーサクセスが注目されている理由は?
さまざまな手法のなかでも、なぜカスタマーサクセスが高い注目を集めているのだろうか。
カスタマーサクセスが注目されている大きな理由には、「ビジネスモデルの変化」が挙げられる。
SaaS業界などでは、継続課金型ビジネスの浸透が進んでいる。従来の「ものを買う」というスタイルから、「利用した期間に応じた費用の支払い」というスタイルに変わりつつあるのだ。
ただ、継続課金型ビジネスは手軽に利用しやすいというメリットがあるものの、同時に顧客離れを起こしやすいというデメリットがある。
高いお金を出してものを買った場合、よほどのことがなければ、その商品を使い続けるという人は多いものだ。
一方、実際にものを買っておらず使用したぶんだけ費用を支払う場合、何らかの問題や不都合が生じると、すぐに顧客が逃げてしまう可能性がある。
特に、同じ商材を扱っている継続課金型ビジネスの競合相手がいる場合は、顧客を逃してしまうと、獲得が難しくなってしまう。
従来のビジネスモデルにおいて契約獲得はゴールだったのに対し、継続課金型ビジネスの契約獲得は、いわゆるスタートといえる。
契約を獲得するだけではなく、顧客に長く商品やサービスを使い続けてもらう必要があるのだ。
顧客の囲い込みを行うためには、積極的に課題を探し、問題の発生を未然に防ぐ必要がある。
このような活動によってカスタマーサクセスの概念が生まれ、やがて多くの企業から注目されるようになったのだ。
5. カスタマーサクセスに必要とされるスキル
具体的に、カスタマーサクセスにはどのようなスキルが求められるのだろうか。
カスタマーサクセスに必要とされる主なスキルには、以下の3つが挙げられる。
5-1 顧客との関係を築くスキル
カスタマーサクセスは顧客のビジネスの概要およびニーズについて、しっかりと把握しておくのが肝心だ。
そのうえで密にコミュニケーションを取り、信頼関係を築いていく必要がある。
そのためには、相手の意見に耳を傾け、必要な情報を聞き出し、うまく話をまとめるコミュニケーションスキルが求められる。
常に顧客の成功を念頭に置き、能動的に提案・対応する力が必要だろう。
5-2 顧客との関係を築く
カスタマーサクセスにおいて、重要になるのが的確な提案・対応を行うことだ。
そのためには、得た情報をさまざまな角度から冷静に分析する力が求められる。
顧客が知り得ていない要素や問題に気付き、何が起きているのか、またそれを踏まえてどのような提案をすべきなのかを見いだす必要があるのだ。
5-3 企画立案・業務設計のスキル
ただ問題に対応・提案をするだけが、カスタマーサクセスの役割ではない。
解決策を提示したら、それをどう業務に落とし込めば良いのか、サポートする必要があるのだ。
つまり、企画立案・業務設計のスキルが求められる。業務における変更点があれば、そのぶん必要となる人員や業務フローも変わってくる。
その人員にかかる費用や業務で必要になる時間・手間などを考慮し、最終的にはどのような形で成功を目指すのか、プロセスの提案を行うのだ。
6. カスタマーサクセスの成功における重要ポイント
カスタマーサクセスを成功させるには、以下の2つがポイントとして挙げられる。
6-1 顧客を見極める
顧客を増やそうという考えが先走り、さまざまな企業にセールスをかけてしまうケースも少なくない。
しかし、なかにはカスタマーサクセスによるサポートを行っても、問題の解決が難しい企業もみられる。
このような企業と契約をした場合、スムーズな問題の解決が望めなかったり、満足度の低下を招いたりするおそれがあるため、注意が必要である。
お互いのためにも、やみくもにセールスを行うのではなく、顧客をきちんと見極めるのが肝心だ。
また、売上のために無理な契約を結ぶことも、極力避けたほうが良いだろう。
6-2 顧客のすべての要望に応えすぎない
カスタマーサクセスでは顧客の要望を吸い上げ、対応・提案を行うのが重要だ。
顧客の要望を聞いて、柔軟な対応ができるのに超したことはないだろう。
ただ、顧客の意見が絶対だと思い込むのは、避けたほうが無難である。
なぜなら、顧客のすべての要望に応えようとして、本来提供できる、より良い提案ができなくなるケースがあるためだ。
そのような状態では、本当の意味での成功は得られない可能性が生じる。
すべての要望を受け入れてしまうと、価値のあるサービスを十分に提供できない場合があるため、注意が必要だ。
顧客の成功を考えるのであれば、ときにははっきりと意見を述べる姿勢を持ち、従順になりすぎないことも大切といえるだろう。
7. 紹介したポイントを押さえてカスタマーサクセスの役割を理解するのが大事
カスタマーサクセスは、主に顧客を成功させるための活動を指す言葉である。
カスタマーサポートとの違いを、きちんと理解しておくのが肝心だ。
また、カスタマーサクセスを成功させるには、顧客の見極めや要望に応えすぎないことも重要といえるだろう。