近年、サブスクリプション型のサービスが増えてきている。
これまで買い切り型の製品を主力としていた企業が、サブスクリプションに移行して成功を収めているケースも多い。
なぜ今サブスクリプションが求められるのか、その理由と成功の秘訣について実例を交えながら説明する。
目次
1. サブスクリプションは「利用」する収益構造
近年注目を集めているビジネスモデルのひとつに「サブスクリプション」がある。
製品そのものを購入する「買い切り」とは異なり、契約期間中だけ製品の利用権が発生する方式だ。
ユーザーは契約期間に応じて料金を支払うことで、対象の製品やサービスを利用することができる。
特にソフトウェアやデジタルコンテンツの分野では、さまざまなサービスがサブスクリプション方式で提供されるようになってきた。
成功事例として以下の3つが挙げられる。
- Adobe社の「Creative Cloud」
- Microsoft社の「Office 365」
- Apple社の「iTunes」
これらの成功の背景には、若い世代を中心として「所有すること」から「利用すること」へ意識が変化してきたことがある。
所有物をむやみに増やさず、必要な時に必要なサービスを利用できれば十分という考え方だ。
このようなユーザー層の存在が後押しとなって、多くのサービスがサブスクリプション方式に移行し、実際に収益をあげるようになってきている。
特に映画や音楽、電子書籍やスマートフォンアプリなどの分野で成功例が目立つ。デジタルデータとして配信可能なコンテンツは、サブスクリプション方式に適しているからだ。
だが、サブスクリプションで成功しているのは、IT関連企業ばかりではない。
1-1. 常に顧客のニーズにこたえるサブスクリプションのビジネスモデル
サブスクリプションは、一見「定額制」と同じビジネスモデルだと思われるかもしれない。しかし、昔から存在する「定額制」とは異なり、よりユーザーとの関係を深めていくことに重点を置いたサービスである。
先ほど述べた3社をみても、より良い機能改善やサービス展開を追及し続けていくことで、ユーザーに常に使いやすさ、新しさを感じる体験を提供していることが分かる。
こうしたユーザーの満足度を常に追及する、継続的な関係構築こそサブスクリプションのビジネスモデルと言える。
2. モノのビジネスでもサブスクリプションの成功例は多い
定期的に商品が届く「宅配」タイプのサービスは、リアルな「モノ」を扱うサブスクリプションの典型例と言えるだろう。
毎月定額でひげそりを自宅まで配送してくれる「Dollar Shave Club」は、米国での成功事例として話題になることが多い。
日本でも、宅食や酒、ペットフードなど定期的に補充が必要なものを毎月届けてくれるサービスがある。
少し変わったところでは、忘れた頃に非常食が届くというものもある。
どうしても消費期限切れのチェックを怠りがちになってしまう非常食に目をつけたサービスだ。
3. サブスクリプションの3つの収益モデル
サブスクリプション型ビジネスにはタイプがあり、一見同じように感じるユーザーの異なった細かなニーズを捉えている。
それぞれのサブスクリプションの収益構造をご紹介したい。
3-1. 上限なしが魅力の「使い放題」
「使い放題」は、サブスクリプションと相性が良い。
企業が所有している施設や設備を定額制でユーザーに解放するのだ。
このタイプでは、すでにチェーン展開している既存店舗を活用した事例が多い。
例えば、居酒屋チェーンが月額制のドリンク飲み放題を提供し、来店回数を増やすことを狙ったものがある。
ワークスペースを好きなだけ使えるサービスも、わかりやすい例だろう。
近年増えているノマドワーカーなどに、ネットワーク完備の快適な作業場所を提供するものだ。
3-2. 自分のタイミングで変更できる「レンタルし放題」
「レンタルし放題」のサブスクリプションは、普段着る洋服やバッグ、ファッションアイテムなどをwebサイトで選び、好きなものを好きな期間だけ借りられるサービスだ。
飽きたら返却すれば、また次のものを借りることが可能になる。
スーツやネクタイといったビジネス用途のものもある。
また、車を好きなだけ乗り換えられるというサービスでは、全国の中古車販売店を拠点としてユーザーが自由に選んだ車種を借りられる。
3-3. プロが選ぶから価値がある「提案型」
「提案型」のサブスクリプションも人気が高い。
契約期間中、専門家がユーザーに合わせて選んだ商品が手元に届く仕組みだ。
コスメや食材、ペット用のおもちゃなど、自分で選ぶよりもプロに選んでもらった方が良いと思えそうなものが対象になっている。
スタイリストが子供服を選んでくれるというものもある。成長が早い子供の時期に着せる服をプロに選んで欲しいという、親のニーズを捉えたサービスだ。
4. サブスクリプションはユーザーにとってメリットが多い
サブスクリプションは、ユーザーと企業の双方にとってメリットがある方式だ。まずは、ユーザーにとってのメリットをみていこう。
4-1. ユーザーのメリット
サブスクリプションがユーザーに歓迎される最大の理由は、何と言ってもイニシャルコストがかからないことだろう。
買い切り型では製品の購入費用が必要なところ、サブスクリプションでは月々のランニングコストしかかからない。
試しに使ってみて、気に入らなければ解約するということも可能だ。
また、使い放題やレンタルし放題の場合は、サービスを利用する頻度が高いほど得をするというのも心理的なメリットだ。
常に最新のものを利用できるという点も大きい。ソフトウェアなら、常に最新バージョンを利用できるためセキュリティ面の心配が少なくなる。
モノの場合でも、常に整備された状態で利用できる上に、新製品が出たら取り替えることも可能だ。
4-2. ユーザーのデメリット
デメリットは、まず利用期間が長くなると、購入するよりもコストがかかってしまうことである。利用期間も考慮したトータルコストで比較し、検討することが必要だろう。また、利用する頻度が少なかったり、利用しない場合でも料金がかかってくる場合が多いので、こちらも考慮すべきである。
さらに、さまざまな機能が入っているがゆえに、人によっては無駄な機能が多いと思われることもあるかもしれない。
利用するサービスによっては、倒産などで使えなくなると損害が出てしまうこともあるだろう。そうしたリスクも頭にいれておきたい。
5. 企業からみたサブスクリプションのメリットとデメリット
では、企業の視点でみるサブスクリプションのメリットとデメリットは、どんなものがあるだろうか。
5-1. 企業のメリット
企業にとってサブスクリプションの最大のメリットは、リピートユーザーの獲得だ。
定額料金を払っているユーザーにとってはサービスを利用するほど得があるので、解約しない限りは高頻度でサービスを利用してもらえるはずだ。
これは、ユーザーデータを獲得しやすいことを意味している。アクティブユーザーの反応をサービス改善に役立てられるのだ。
ユーザー数をもとに売上予測を立てやすいため、改善にかけるべきコストも計画しやすいだろう。
満足度を順調に上げていくことができれば、ユーザー数が増えより大きなビジネス基盤に成長する可能性もある。
5-2. 企業のデメリット
一方、解約されてしまうリスクは避けて通れないデメリットだ。
サービスを維持するコストを考えると、一定のユーザー数を確保することが重要課題になる。
ユーザー数をしっかりと確保することで、新鮮で満足度の高いコンテンツを出し続けることが出来る。それがユーザーの満足度を維持し、解約せずに使い続けてもらうことが出来る重要なポイントとなるからだ。
また、既存ブランドをサブスクリプションに移行する場合は、「価格が下がった」と捉えられるかもしれない。
このことがブランドイメージに及ぼす影響については、事前によく考えておくべきだろう。
もちろん、低価格化によってイメージが悪くなるとは限らない。
6. サブスクリプション型ビジネス導入時のポイント
製品の「売り切り」と大きく異なる所は、製品自体は同じでも提供方法や範囲を変えることで、複数のサービスに出来るところにある。
ユーザーのニーズをしっかりと反映させて、利用頻度や利用時間などにより価格を変えることで、ユーザーの満足度を高めることがポイントである。
満足度を高めることは、ユーザーの成功体験となり、企業の最大のデメリットである「解約率」の低下に繋がることになるのだ。このカスタマーサクセスの考え方は、継続的なユーザーとの関係を築くサブスクリプション型ビジネスモデルにはとても重要なことである。
ユーザーの成功体験を重視するカスタマーサクセスは、今までのいかに購入してもらうかという営業スタイルから、いかに継続してもらうか、その為にいかにニーズを分析し、必要な機能を盛り込んだサービスを提供出来るかという営業スタイルに変わってきていることを意味している。
また、無料期間を作るといったことも、一度も製品を使ったことのない新しいユーザーに向けて有効な手段だ。
7. サブスクリプション型ビジネスを拡大する戦略とは
すでに買い切り型の製品を持っている企業なら、サブスクリプションへの移行は比較的計画しやすいかもしれない。
買い切りよりも安い月額費用を設定すれば、新規利用のハードルを下げることができるからだ。
7-1. スマホアプリの活用
扱う製品自体がモノであっても、商品情報の発信やユーザーサポートのためのインターフェースとしてスマートフォンアプリを採用するケースは多いだろう。
その場合は、App StoreやGoogle Playといった既存プラットフォームを活用して新規顧客を獲得するというのも現実味のある方法のひとつだ。
これらのプラットフォームを用いれば、アプリ内でユーザーとサブスクリプション契約を結ぶことも可能だ。
7-2. ユーザー満足度の維持
サブスクリプション型のビジネスをスタートした後は、アクティブユーザー数を増やしていくことが収益拡大の基本戦略となる。
ユーザー満足度の高いサービスを提供し、解約率を下げることが肝要だ。
ユーザーの行動を積極的に観察し、要求を分析することが重要課題である。
ユーザーの要求を発見できれば、効果の高い部分に優先的にコストをかけ、効率的にサービスを改善することが可能になる。
また、ユーザーに求められないサービスの開発に時間と費用をかけてしまうリスクを避けることにもつながるだろう。
7-3. NPSの活用
サービス改善がうまくいっているかどうかを判断する指標を導入することも重要だ。
ユーザーに「あなたがこのサービスを友人に薦める可能性はどのくらいありますか?」という簡単なアンケートを行い集計する「NPS(ネットプロモータースコア)」は、そのための有効な手段といえる。
NPSはサブスクリプションで成功している多くの企業で採用され、収益性と相関が高いことが知られている指標だ。
8. サブスクリプションモデルの成功事例
現在いろいろな分野でサブスクリプション型ビジネスが存在するが、その中でいくつかご紹介したい。
8-1. Amazonプライム
様々なジャンルの映画やドラマが見放題、さらに本も読み放題、オリジナル作品もあって、音楽はなんと200万曲が聞き放題。月額500円、年間4,900円でここまで出来るのはさすがAmazon。30日間の無料体験もできるので、気になる人は一度試してみるのもいいだろう。
8-2. エースコンタクト
コンタクトレンズの定額制サービス。
月額1,800円~で豊富なラインナップから選ぶことが出来る。定期的に送られてくることで、うっかり買い忘れるなどの心配もなく、そういった煩わしいストレスから解放される。
8-3. WorldLibrary Personal(ワールドライブラリー パーソナル)
大切な子供に色々な世界を見せてあげたい。実際に見に行くことは難しいが、絵本で文化や考え方を見せることはとても良い機会だろう。1歳から7歳までの年齢別で、30カ国の日本語翻訳された絵本が毎月届く。月額1,300円(送料、税込)の手頃な価格設定も嬉しい。
8-4. sonar-u(ソナーユー)
日々の疲れをライブで発散したい。そんなユーザーの声に応えたサービスが定額制のLIVE行き放題サービス「sonar-u(ソナーユー)」。たったの月額1,600円で年間1,400件以上も開催されるライブに行き放題である。
定額制のLIVE行き放題サービスsonar-u(ソナーユー)
8-5. Hulu(フールー)
人気の映画やテレビ番組が月額933円。現在放送中のドラマの見逃し配信もしているので、録画し忘れても安心。話題の俳優の作品が一覧で見れるなど、色々な軸で検索できるところも楽しめる機能である。
8-6. Kindle Unlimited(キンドル アンリミテッド)
月額980円で好きな本が読み放題のサービス。ビジネス本から小説、漫画に至るまで、好きなジャンルを読むことが出来る。端末も気に入ったものを選べるので、スマホで簡単に読むことも、カフェでタブレットを使ってじっくり楽しむこともできるだろう。
Kindle Unlimited(キンドル アンリミテッド)
8-7. PlayStation Now(プレイステーション ナウ)
PS3やPS4のゲームが遊び放題のサービス。1ヶ月、3ヶ月、12ヶ月と利用期間が選べて、それぞれ1,180円、2,980円、6,980円の料金がかかる仕組みとなっている。Windows PCでも遊ぶことが出来るので、ゲーム機本体を購入する必要もない。新しいゲームが出る度に購入するか悩む必要もなく、試してみることが出来る。
8-8. MECHAKARI(メチャカリ)
ファッション系のサブスクリプションでメチャカリは外せない。月額5,800円で洋服を何度でも借りることが出来る。なんと言っても、全て新品というところが魅力である。試して気に入った洋服があれば割引価格で購入することも可能だ。
8-9. Dyson Technology(ダイソン テクノロジー)
ダイソンの商品は良さそうで使ってみたいけど、少し値段が気になる。そんな方に試してもらえるサービス。商品毎に月額料金が設定されており、新しい機種へのアップデートも行っている。気になる最新商品を気軽に使うことが出来る。
8-10. Laxus(ラクサス)
大事な日にはブランドバックで、ワンランクアップしたオシャレを目指したい。そんな方にオススメのサービス。月額6,800円で、有名ブランドのバックが使い放題となる。1日たったの219円と考えると、価値のあるサービスといえる。
8-11. coffee mafia(コーヒー マフィア)
コーヒー飲み放題の他に、割引価格でドリンクを購入出来るなど特典いっぱいの定額制サービス。3,000円と6,500円の2種類があり、6,500円会員はスムージーも来店毎に1杯無料、全てのドリンクメニューが無料、とカフェを毎日思いっきり満喫することができる。
8-12. Araeru(アラエル)
ランドリーが使い放題のサービス。雨の日も、湿気が多い時期も悩む必要なく洗濯することが出来て、気分もスッキリ。スマホで残り時間をチェック出来るので、時間を有効に使える。
9. まとめ
物やサービスの価値には変わりがなくとも、ユーザー側は生活や環境の変化によって、求める形は変わっていく。
これに、いち早く対応できたのが、サブスクリプションだと考えられる。
サブスクリプションは、ユーザーのメリットが圧倒的に多くあります。定額で必要なものを必要な分だけ、自分で選ぶことも、プロに選んでもらうことも、ユーザーの好みで決められることが最大のメリットだ。
企業とユーザーは、売り切って終わりという関係だけでなく、良いものであれば、いつまでも関係が続くというのは、モチベーションにも繋がり、さらなる研究・開発へと繋がるのではないだろうか。